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荒壁講習会講演

久住 章



■壁土に混入する藁について

今日は材料を練ってすぐ塗りました。練ってから最低でも1日、1週間くらい練り置きするのが理想的なのですが、敷地の制約があることが多く、特に町中では土を寝かすほど敷地がないので、基本的に昔から練ってすぐ塗ることが多いのです。


藁の役割と、藁の粒度分布

藁はつなぎ材と、骨材の両方を兼ねて存在します。藁の役割は100%割れ止めだと思っている方が多いですが、「土の強度を落とさずに、ひび割れをとめる」というのが一番大きな役割です。単純にひび割れだけ止めるのであれば、藁よりも砂の方がききます。しかし、小舞下地のような目の粗いところに、砂だけで収縮を止めた材料を塗ろうとしても、向こうへ抜けてしまって、塗れません。ですから藁のような、向こうへ抜けない繊維の巾・長さが必要なのです。

ふつう、荒壁に入れる藁は、6~9cm(2~3寸)ですが、長い藁が多いほど、材料が伸びないので、練ってすぐ使う場合は、だいたい2~3寸の藁と一緒に、1寸以下の短い藁を半分以上入れます。作業性を上げるために、あるいは隙間に材料が入っていくためには、長い藁だけではダメで、細かい藁を入れる必要があります。これは砂の粒度分布と同じです。例えば左官用の砂を1分5厘~1分2厘(3.6mm)の間のみを篩い分けると、粒ぞろいなので塗れません。細かい粉みたいな砂から、4.5mmくらいのものがあり、粒度分布があれば、作業性が良くなります。藁もそれと同じ考え方です。

作業性を良くし、ひび割れを止め、土の強度を維持するには、藁を入れ、かつ藁に粒度分布がないとダメなのです。


練り置き期間によって、入れる藁の量が違う

練ってすぐ塗る場合、藁が軟らかくならないので、硬いままで塗ることになります。2、3日でも練って置いてあれば、全部2~3寸の藁でも、藁が軟らかくなるので、作業性が良くなります。練り置きすると、藁の骨材としての役割が低下します。そのため練り置きするものは、その日に塗るものよりも藁を多めに入れなければなりません。

粘土も、水で練ってその日に塗るものと、たった1日でも練り置きしたものでは、粘土の分解量が違います。乾いている粘土を水につけると、水を吸って溶けていきます。ところが、湿気を含んだ粘土というのは、溶けません。粘土を練ることには、そういう問題があるということを分かっておいてください。湿気を含んだ粘土でも、1日経った方がねばくなるという現実があります。ねばくなるほど、収縮率が上がるので、その分藁を増やさないといけません。材料を練るときに、その日に使うのか、何日間か置くのかで、藁の量が変わるのです。2、3日練り置きすることになったら、藁を多めに入れないといけません。


藁の品質

今みなさんが家庭で食べているのは、コシヒカリが多いと思いますが、昔僕らの若いころは、関西で一般的に栽培されていた米はニホンバレという種類です。これは、繊維が太くて、背が高い。葉っぱの幅が広いです。繊維が硬く、台風に強い種類なのです。それに対し、コシヒカリは茎や葉が細い。ここで、同じ量を土に入れたとき、ニホンバレの方が繊維が軟らかくなるのに日数がかかるわけです。同じ量を入れても作業性が変わります。ですから、米の種類によってもそういう差が出ることを知っておいてください。何でも藁だったら品質が一緒ということはないのです。


■粘土の防水性能について

今日使った粘土は非常にいい粘土でした。粘土は、水に強いかどうかがという防水性能が、非常に重要なのです。住宅の内装の場合あまり関係ありませんが、土蔵、土塀、城の壁といった、背が高い割に庇の出が浅いものは、雨がよくあたります。こういうものは、漆喰から湿気を吸って、土に到達します。土に力がなければ、すぐに漆喰がはがれます。特に、昔は土のまま置いてある家の壁も土塀もたくさんありました。

新しい土を使うときは、土が水に強いかどうかを試験する必要があります。実験をやらないと、触っただけでは分かりません。


■縦竹側から塗る壁と、横竹側から塗る壁

荒壁の場合、共通して縦竹側から土を塗ることが多いです。しかし、滋賀県の守山というところは、外部側に横竹があって、横竹側から土を塗るという習慣があります。それらはどのような違いがあるのでしょうか。


縦竹側から塗る場合

縦竹側から土を塗ったとします(図1)。そうすると、横竹側には図2のように土が出てくるので、それを鏝で均します。横竹側から見ると、縦竹が引っ込んだ部分に土がない状態になります。そうすると、横竹側から裏返しをしたときに、縦竹が引っ込んだ部分に土がつきます。

a_k01.jpg図1
a_k02.jpg図2

横竹側から塗る場合

逆に、横竹側から土を塗ると、縦竹側には図3のように土が出てきます。縦竹側から見ると、縦竹の部分に土がない状態になります。粘土というのは、竹へのくっつきが悪いのです。竹にくっつくわけではなく、竹の隙間にくい込んで止まって、壁が構成されるのです。

縦竹側から見て、横竹の部分は、だいたい縦竹と面いちくらいで荒壁の土が乾いています。ここで重要なのは、「乾いた荒壁の上には、荒壁はくっつかない」という原則があることです。ねばすぎるのです。乾いた荒壁の上に塗る場合、砂を少し足して、収縮率を下げないとくっつきません。そういう原理が働くので、横竹側から塗って、乾いてから裏返しすると、竹のつるつる部分にも、荒壁が乾いた部分にも、裏返しの土がくっつきにくいということになります。これは、地震のときに剥離の原因になりやすいのです。

a_k03.jpg図3

なぜ守山では横竹側から塗るのか

今日塗った壁は、貫が、芯から貫1枚分はずしてありました。この壁は、縦貫と横貫の接点が芯になるようになっています。(図4)。普通の住宅の場合は、横貫が真ん中に入ることが多いのです(図5)。横貫の中心が芯にある場合、縦貫側の壁は薄く、横貫側の壁は厚くなります。

守山では、だいたい横貫が柱の芯に入っています(図6)。なので、横貫側の方が縦貫側よりも壁が分厚くなる。外部側が全部横貫なので、外部側の荒壁の方が分厚くなります。これは、家が隣接して建っていて火事が起きた場合、延焼を受けにくくなる、というメリットがあります。塗り厚が薄いと、貫が焼けてしまいます。貫が焼けると、構造としてもちません。延焼を防ぐために壁を厚く塗りたいという意図が、横竹を外部側にして塗るというところに出てきているわけです。なぜ外部側から塗るのかというと、棟上早々、とりあえず雨が内部に入らないようにできるからです。そういう理由があって、守山では、横竹を外部に向け、横竹側から塗るのです。

a_k04.jpg図4
a_k05.jpg図5
a_k06.jpg図6

ですから、どれが間違っているか、正しいか、という問題ではないですね。ただ横竹側から塗るか、縦竹側から塗るかは、裏返しの土がくっつきにくいか、くっつきやすいかという問題が生じます。こういうことがあるということを、覚えておいてください。


■小舞竹の編み方について

建築基準法の告示(以下告示)の編み方(*)で編むときは、縄は細縄で編みます。細縄というのは4.5mmのことなのですが、実際には約6mmほどあります。今日使っているのは、2分半縄といいます。2分半というのは約7.5mmのことなのですが、実際には10mmくらいあります。細い縄で編んでいる地域もあります。本当は改善しなければならないけれども、予算の都合や、工期の問題があり、どんどん安くせざるをえない状況があります。それでも一応仕上がりますが、台風や地震のときに問題が発生します。だから、建築家の人は、あんまり値切らないようにしてください。(笑)ちゃんと予算をつけて、少なくとも下地がちゃんとできるようにやって欲しいのです。

久住仕様(*)試験体の竹は、告示に書いてあるものと、まったく違います。告示なら、竹の太さは、細く、竹の隙間も、指1本入るか入らないかくらいしかないので細い縄しか使えません。太い縄では編めません。一方、告示では、竹の空いた隙間に土を塗って、それが乾いたら固まって壁として成立しますよ、という考え方なのです。


竹はしっかり編めば筋交に近い強度がある

この基準は、まったくの安普請で、「何があっても大丈夫」という強度ではないです。基準はクリアしても、地震が起きたときには誰も保障してくれない。ですから予算のある方は、久住仕様試験体のような、竹の幅が広く、隙間が広く、手間をかけた編み方にしてください。そうすると、実は縄と竹だけで筋交に近い強度が出るのです。

ここで、一つ注意があります。今日、はじめに編んであった縄を解いてやり直しました。はじめに編んだときは、竹が青竹でした。竹は乾くと縮みます。縮んだ分だけ縄が緩みますが、縄が緩むと強度が出ません。だから今日は編み直しました。なので、予算があって、工期があれば、竹は少なくとも半年以上乾かさなければなりません。その後、久住仕様試験体のように、しっかりと縄で編むと、筋交いに近い強度が出ます。

数値としては、まだ保障できません。今から実験する予定です。ただ僕たちは、設備がないので、2尺×3尺で竹と横貫2本だけのサンプルで、どのくらいの強度があるのか、自分で体験的にやってみました。サンプルを45度に傾け、自分の体重60kgをかけてみました。久住仕様のサンプルはまったくひずみませんでした。100回くらいやったらやっと縄が緩んでくる、というくらいの代物でした。ただし、同じ編んだのでも、ゆるく編んだのではダメです。きちっと締めて編むことが重要です。告示試験体で同じようにやると、2尺×3尺のサンプルは、手首の力で簡単にぐしゃっとつぶれます。体重なんてかけられません。手でやるだけでつぶれる、それくらいの強度しか告示の編み方では出ないのです。一方では壁が強くなると木構造が破壊されるので、壁がこれ以上強くなることは不必要であるという考え方もあります。

*「建築基準法告示に基づく方式」と「久住仕様方式」(輪島方式)については、当サイトの「木舞講習会報告」(2008年2月実施)を参照にしてください。


■土について

土を寝かせる(腐らせる)より、いい土を選ぶ

荒壁は寝かせて腐らせないとダメといいますけど、腐らせるのは、壁の圧縮強度を上げるためではありません。土を腐らせる一番のメリットは何か、といったら、防水性能なんです。昔は荒壁の状態で長く放置されていました。

新築の家を建てる場合の話をします。ふつう柱には全部養生用の紙が巻いてあるので、荒壁を塗っても汚れません。しかし例えば、ヒバ(あすなろ)という木は、非常に染みがつきやすい木です。地金の鏝でこすっただけで、木が黒くなるくらいです。アクの出やすい、腐らせた土を使うと、いくら紙を巻いてあっても、湿りが木に伝わるだけでアクが出ます。白木の造作の場合は、土を腐らせることで、そのようなデメリットがあるのです。シラタの杉とヒノキはアクが出にくいのですが、それ以外の木(ケヤキ、栗、ツガなど)はアクが出やすい。ですから、新築の場合は、荒壁を腐らせずに練ってすぐ使う方がいいのです。

重要なのは、寝かせることよりも、いい土を選ぶことです。寝かして練り直す手間があったら、運賃を払っていい土を運んだ方が、絶対強度が出ます。土を変えるだけで、壁倍率が2倍くらいになることもあります。いい土を選ぶには、実験をやらないといけません。ところが土は、昔から土地土地のものを使いますので、いい土を運ぶ習慣があんまりありません。職人さんも普段からいろんな種類の土を使い慣れていないので、実際のところ、どの土がいい土で、どの土が悪い土なのか、実験をしないと分からないのです。


強度の出る土を見分ける実験方法

とりあえず簡単な見分け方は、粘土を作って落としてみることです。素人の人でも、判断しやすい基準になります。次に方法を紹介します。

1 図7のような実験装置を作る。
・ 下に10cm厚以上のコンクリートもしくは石を置き、柱を立てる。
・ 柱の高さは2mもあれば充分。柱に10cmくらいごとに目盛りがあるスケールなどを貼る。貼るのではなく、10cmごとに印をつけてもOK。
・ 柱は少しだけ斜めにする。

2 藁を入れない土だけの粘土で、直径3cmの団子を作る。
・ 粘土は、湿ったものではなく、乾燥させて、いったん粉にしたものを使用する。団子を作るときにもう一度水で練る。
・ 粘土によって、含水量が違う(ねばい粘土は水が多く、さくい粘土は水が少ない)が気にせず、軟らかさを一定にする。
・ 一種類の土について10個くらい作る。
・ できるだけ楕円じゃなく真円(まん丸)にする。

3 実験をする。
・ 最初は2m高さのところから、落としてみる。簡単に割れてしまったら次は1m高さにするなど、高さを変えていって、割れる高さがどのくらいかを試験する。
・ 5つくらい高さを変えて実験し、割れるか割れないかのぎりぎりの境界線が分かったら、そこから、残りの5つは落とす。
・ その5つについて、破壊の状態を確認する。割れたのか、割れなかったのか。割れたとしたら、2つに割れたのか、ばらばらに割れたのか。ひびは入ったのか。大きいひびか、小さいひびか。そして、まったく破壊されないところがどの地点なのかを確認する。
・ それが60cm高さ以上であれば、だいたい使える。

a_k07.jpg図7

注意すべき土がある

「浅黄土」というよもぎのような色をした土は、「0.002mm以下の粘土質→4%、0.02mm以下のシルト→60~80%」という土です。この土は、練ったらねばく、高いところから落としても壊れませんが、壁に塗ると、まったく強度がありません。この浅黄土は大津壁には使うけれど、荒壁にはあまり使いません。それから、赤土は、固まらないものが結構あります。赤土というのは日本全国に分布しており、練ったらねばいのに、乾くと全然力がないものが多いのです。

なので、高いところから落として壊れなかったからといって、使えるとは限りません。1回藁を入れて、練って、小さいサンプルでもいいので作ってください。数値だけを信用すると、後から失敗することがあります。



この記事は、早稲田大学大学院生、山田宮土理さんがまとめてくださったものに、久住さんが加筆・修正したものです。山田さん、ありがとうございました。

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