左官屋さんから一般の人まで延べ千数百人が来場
大盛況の大江戸左官祭り
平成24年4月13日~15日、晴海トリトンスクエアで「大江戸左官祭り」が開催された。この祭り、企業の主催ではなく、なんと、全国の左官屋さんたちとその仲間たちによるもの。まさに手づくりで、一般にまで広く開かれた一大イベントだった。住宅の壁は乾式のクロス張り、そんな壁が当たり前になった現在、左官の壁と技に触れることのできる滅多にないチャンス。3日間とも大盛況で、複数のメディアの取材もあった。
第1回運営委員会が開かれたのは昨年の9月。東京都左官職組合連合会平成会、日本左官会議、左官を考える会、アイシオールほか大勢の人たちが力をあわせ、そこから具体的な企画と準備がスタートした。
実演や左官講習会、体験教室のほか、討論会や座談会、材料や道具販売まで、なんとも盛りだくさんな内容。開催日が近づくにつれ、みなさん準備で大忙し。左官講習会で使う材料やパネル、道具づくり・・・、開催前日からは搬入やら設営もあり、平成会を中心に左官屋さんたちが汗を流した。聞けば、ほとんど寝ていないという人がたくさん。
実演に目が釘づけ
さ~て、いよいよ開催。連日北海道から九州までの左官屋さん、建築関係から一般の人まで老若男女で会場は大にぎわい。初日の伊勢磨き・洗い出しのかまどづくり実演から始まった実演や2日間の左官講習会では、人垣ができていた。普段見ることのできない名だたる左官名人の技を自分の目で確かめられる滅多にないチャンスとあって、見学する左官屋さんの目つきも真剣だ。一般の人も興味津々。
身を乗り出す見学者
(手前)洗い出し仕上げ、(奥)伊勢磨き仕上げ
久住章氏による解説も
左官屋さんがス~ッ、サ~ッと鏝で塗っていく姿は美しく、見る人は誰もがひきつけられるのではないだろうか。この左官祭りでは壁塗り体験のコーナーも設けられ、順番待ちの行列ができるほどの人気ぶり。
左官屋さんの指導のもとに、パネルに材料を塗っていくのだが、鏝を持つのも初めてという人も多く、いざやってみると左官屋さんのようには全然いかない。鏝板から鏝に材料を載せることができない、材料が床にポロッと落ちる、パネルに塗るというより盛ってしまう。あちこちで笑い声が聞こえる。「いや~、難しい!」。
「ほら、こうやって塗るんですよ」。やって見せてくれる指導係の左官屋さん。「ねっ、鏝の当たっているところが違うでしょ」。そう言われ、なるほどとまた挑戦する体験者。
塗りかたを指導
「ふ〜む、そうやって塗るのか・・・」。見学者は一心に見守る
榎本新吉流 光る泥団子教室も、誰でも参加できるとあって早々に事前申込が締切となった。目を輝かせて泥団子を磨く子どもたち。おとなも負けてはいない。一心不乱に磨き続ける。
ひたすら磨け磨け・・・
こちらにも人だかりが。泥団子を乗せる台(輪っか)を榎本新吉氏が麻ひもで仕上げているのだ。榎本氏、見ている人や教室参加者に次々とその輪っかをプレゼント。もらった人はみんなうれしそう。
榎本新吉氏からプレゼント
レベルが高い日本の左官技術
討論会や座談会もどれもこれも満員御礼だったと聞く。久住章氏、原田進氏、挾土秀平氏の座談会「これからの日本の左官」の会場に行くと、人があふれていた。どうしようか、会場の外で声だけでも聞けたらと、なかばあきらめかけていたところ、久住章氏が入りきれない人たちに「入ったらええんや」と声をかけてくれる。本来あけておくスペースにまで人、人、人。立ち見どころか床に座り見(?)の人がギューギューに詰まり、熱気ムンムンだ。
原田氏は地産地消を目指す。まわりの人とかかわり、つながりながら壁を塗っていく。土も地元でとり、ワラは自分で作る。竹もまわりに生えているものを使う。基本は「地場があること」だと話す。
挟土氏は「日本の左官は見立ての名人」と、日本の左官の魅力を語る。「土を塗る現場がほとんどない」と日本の現状に危機感を持ちながらも、「美しい仕事をやること」を継続していく。
日本の左官技術が世界的に見てレベルが高く、抜きん出ていると教えてくれたのは久住氏。正確で精密、デザイン・技術力・提案力のあることが特徴だと指摘する。
久住氏はいま進行中の自分の仕事を紹介してくれた。4つの現場があるが、どれも共通しているのは「人を楽しくする、幸せにする」仕事であること。「(施主が)どうやったら楽しい人生を送ることができるかを考えると、夢がふくらんでスケールアップしていく」。そうして次から次へと新しいことを具体的に提案しているのだそうだ。「もうちょっと大きな目で考えてください。我々左官が日本を救うくらいの気持ちで」という明るく前向きな声に会場がドッと湧いた。
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建築関係ばかりでなく、これほど人が集まるということは、塗り壁に興味のある人がどんどん増えているのかもしれない。昔から土や砂、ワラといった素材を使って塗られてきた壁は今の時代にかなり魅力的だ。今回の充実した大江戸左官祭りを通して、一般の人にまで左官の壁を広くアピールできたのではないだろうか。
準備から開催後まで、幹事さん、事務局や関係者の方々、お疲れさまでした。
(文:編集室 山屋妙子)