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左官職人はもちろん、素人も楽しめる左官の講習会 「日曜左官」

早稲田大学輿石研究室 山田宮土理



東京都品川区にある城南職業能力開発センターにて、月1回のペースで中塗りの実技講習会、「日曜左官」が開催されている。講師は左官職の上野詔弐氏と田中富久氏。山口明氏、綿引広孝氏が会の幹事役を務めている。2009年5月31日(日)、あいにくの雨にも関わらず、約30人もの人が中塗りの練習のため、会場に集まった。
この講習会の特徴は、左官職人や職人を目指す学生はもちろん、素人の参加者も多いということだ。左官を体験したい、土壁を塗りたい様々な分野の人たちが、用意されたサブロク版の練習台に思い思いに材料を塗付けていく。
講師と幹事の方々が、丁寧に指導をしてまわる。塗る体勢、塗る順番、鏝の持ち方から動かし方、力の入れ方、等々。初心者でも一日塗ると、何となく塗れるようになってしまう。
日曜左官で使う材料は土である。淡路産の中塗土に、砂と長さ1cm程度の中塗用藁スサを加えて加水し、適度な軟らかさとなるよう調節したものである。土を使う理由は、完全に再利用できるから。使い終わった材料をバケツに回収して保管し、次回の使用時に藁スサや水を加えて練り混ぜればすぐに使うことができる。

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日曜左官の様子


日曜左官の魅力は、壁を塗れるだけではない
日曜左官は壁を塗るだけでなく、壁塗りに関する様々な活動の機会となっている。その一つに、講師の上野氏による鏝のメンテナンスがある。これ目当ての参加者も少なくない。特に左官職である参加者は、「自分の鏝をメンテナンスしてもらうだけでなく、メンテナンスの方法を教えてもらい、仕事に活かしている」と話した。
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鏝のメンテナンスを行う上野氏

この日は、鏝のメンテナンス以外に、上野氏、田中氏手作りの様々な素材・形状のちりぼうきを紹介してくれた。過去には鏝板作りを行ったり、洋風建築などの天井と壁の交差部等に使われる技法である蛇腹引きの実演講習を行ったこともある。
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ちりぼうきを見せてくれる上野氏・田中氏
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過去に行った蛇腹引きの実演講習


きっかけはTVチャンピオン
日曜左官は、2008年1月に始まった。きっかけはTVチャンピオンで左官が取り上げられた時、取材の準備で小屋の下塗りを行った時のことである。現在の講師である上野氏と幹事である山口氏、綿引氏をはじめ、20人程度の人が下塗りのために集まったが、20人の中には塗れる人と塗れない人がいた。そこで、練習したい人を集めて、綿引氏のアパートで壁塗りの練習会を始めた。これが日曜左官のはじまりだ。練習会2回目から上野氏が誘った現講師の田中氏も加わった。2008年5月頃からは、人数が集まっても開催できるスペースと道具が確保できる、城南職業能力開発センターに場所を移した。最初は5~6人でスタートした日曜左官だったが、最近3回は参加者が20人を超え、盛り上がりをみせている。


講師と幹事の思い
「素人が持つ新しい発想を大事にしたい」 講師の上野詔弐氏
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上野詔弐氏
東京護国寺安田家霊廟結界塀の改修、居酒屋権八(西麻布交差点)の土蔵観音扉など、数多くの塗り壁の施工を手がける上野氏(上野左官工芸代表)。日曜左官は素人も壁を塗って楽しめる、そんな会だと言う。「多くの左官屋は、ずっと左官をやっているから、壁の表面を平らにすることしか考えていない。素人は素人にしか気付けない閃きを持っている。素人が左官に触れることで、新しい左官が生まれることを期待している」と上野氏。日曜左官では単純に中塗りの作業を行うため、素人にも慣れ親しみやすい。「壁を塗る楽しさを実感してくれて、自分用の鏝を買ったり、鏝板を作ったりして左官にのめり込んでくれるのが嬉しい。今後色んな場所でこのような会が開催されることを願っている」と話して下さった。

「基本を教えることが大事」 講師の田中富久氏
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田中富久氏
田中左官工業所代表。鏝屋で偶然榎本新吉氏に出会ったことをきっかけに、久住章氏の存在を知る。久住氏の現場に足を運ぶうちに仕事に誘われ、以来、数々の仕事を久住氏と共にこなす。
「土を塗ることは、プロの左官職人でも難しい。講習会で教えているのは厚みをつけて塗る、土。現在の左官仕事は薄塗りがほとんどで、厚みをつけて塗る仕事は少ないため、左官職人でも、その点では素人として基本から教えている」自ら鏝を手にとり丁寧に指導してくれる田中氏。日曜左官で講師を続けられている理由を伺うと、「楽しいからだ」と、照れながらおっしゃった。日曜左官が自らの技術を惜しみなく伝えて下さる講師の方々あってこその会であることを感じた。

「左官の技術を知ってもらいたい」 幹事の山口明氏
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山口明氏
外資系の石油製品製造販売会社を10年ほど前に辞め、左官職に転向。現在、職業訓練校の指導員として活躍している。左官に関する技術の継承と開発を目的とした情報集積の場、左官的塾webの管理を行う等、左官に関する情報発信を積極的に行っている。
「塗り壁の良さを分かってもらうために、左官を知ってもらう時代は終わったのではないだろうか。これからは左官の技術を知ってもらう時代。技術を知ってもらう事で塗り壁を広めることが出来ると考えている。日曜左官も、左官の技術を知ってもらう活動の一つ」と山口氏。その人脈を生かし、左官の技術を知ってもらい、左官を広めるために多くの人を日曜左官に巻き込んでいる。

「内装を全て出来る職人になりたい」 幹事の綿引広孝氏
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綿引広孝氏
職業訓練校指導員。本職は内装屋で、普段石油製品の扱いが多いため、自然素材を扱う左官に興味を抱いた。1年間左官屋に弟子入りした経験もある。
「将来は、大工職人さえいれば内装は全部自分で出来る、という職人になりたい。」と夢を語ってくれた。そのために、日曜左官やその他の講習会に参加し、左官の基本を学びたいと考えているそうだ。現在は、今までの経験を活かして古民家を再生する試みが進行中である。
また、綿引氏は日曜左官で、良い鏝を安く販売している。日頃から工具メーカーの看板を見つけると必ず店に立ち寄るようにしており、そこで見つけた安くて質の良い鏝を販売するのだ。素人でも受け入れやすい値段で販売することで、自分用の鏝が欲しいという声に応えている。


最後に…
私は大学で壁土材料に関する研究を行っている関係で、山口氏に誘って頂き、昨年の秋から日曜左官に参加している。一大学生が、鏝を握り、プロの職人の方々に教えてもらえる機会はめったになく、私にとっては土壁や左官のことを体感できる絶好の機会となっている。
日曜左官に参加してから、土という材料の魅力をますます感じた。自分自身も含め、参加者が泥んこになりながら夢中に壁を塗る様子を見ていると、土の持つ不思議な力を感じずにはいられない。人を童心に返らせ、自然体にさせるような力。土が遠い存在となったここ東京に住む人々は、日曜左官のような場を心の何処かで求めているのではないだろうか。

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集合写真


上記記事は「月刊さかん」017号(2009年9月25日発行)に掲載されたものを転載させて頂きました。
「日曜左官」の最新情報は、当HPのイベントナビでご確認下さい。
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