泥団子イベント0905レポート

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こどもたちに伝えたい! 左官屋さんによる「塗り壁」の良さ



5月5日、6日の2日間、東京都小金井市・江戸東京たてもの園で「こどもの日のイベント」があり、勝又久治親方を中心に平成会などの左官屋さんたちによる「光る! 泥団子づくり」が実施されました。対象は小学生です。

当日は曇り空。時々雨もぱらつくような、あいにくのお天気。でも、こどもたちに毎年人気のコーナーというだけあって、整理券が配られ、時間前にはこどもたちが列をなして待つ、という盛況ぶりでした。

こどもたちに泥団子づくりを教える先生役は左官屋さんたちとその他協力者の面々。

まず、三木きよ子さん(師匠は榎本新吉さん)から泥団子について説明がありました。
「この泥団子は、ふつうの泥団子ではありません。ふつうの泥団子はそのうちヒビが入って、壊れてしまいますね。そこで、左官屋さんたちが、壊れない泥団子を、左官屋さんの技で作ってくれました。材料は土壁に使うものと同じ。土に珪砂という細かい砂と、ワラを混ぜたもの。

まず、その土壁の材料で小さな団子を作ります。それを乾かして、その上に、また材料をつけて、乾かす。これをくり返して、だんだん大きな団子にしていきます。それで、最後に、こういう丸いノコギリ(注)を使って、まん丸な形にしてあります。その上に砂漆喰を塗ったのがこの泥団子です」

ふ~ん、とわかったような、わからないような顔をしたこどもたちは、目の前の、白い砂漆喰で覆われた泥団子を見ています。


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左官屋さんの技を説明


「きょうキミたちにやってもらうのは、仕上げ。この泥団子にノロを塗って、ピカピカに磨きましょう!」
このことばに続き、塗り方、磨き方を教わったこどもたちは、早速挑戦。泥団子にノロを塗りつけ、乾かし、それから磨き続け・・・。

泥団子の仕上げは、土壁と大津磨きに由来する左官の伝統技法を応用したものです。磨けば磨くほどピカピカに光っていく仕上げにこどもたちは真剣な表情で取り組んでいました。

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うまく塗れるかな・・・


5日の午後には一時激しい雨となりましたが、こどもたちは目の前の泥団子にずっと夢中。天気のことなんて少しも気にしていない様子。最後に、ピカピカに光らせた泥団子を、大事そうにもって帰る姿が印象的でした。

(編集室注)
丸いノコギリ:
ホルソーという名称のノコギリ。円筒状で端部がギザギザになっている刃の道具。通常、ドリルに装着して平板やコンクリートなどに真円の孔を開ける際に使用する。




実演で塗り壁の良さを実感

今回は、塗り壁と土壁、ビニールクロス壁の違いを実際に見てもらおうと、実演も行われました。事前に準備されたのは、3種類のパネル。漆喰が塗られたもの、土壁(泥団子と同じ材料)が塗られたもの、そしてビニールクロス壁が張られたもの。

さて、バーナーを取り出し、実際にあぶってみました。漆喰と土壁とでは、火が当たっているところが赤くはなりますが、煙は出ません。ところが、ビニールクロス壁の場合、炎が出て燃えてしまいました! みるみるうちに、焼けこげてボロボロに。見ていた人たちは驚きの声を上げていました。

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まっ赤に燃えるビニールクロス


おまけに、ビニールクロス壁からは煙がもうもうと出ます。その臭いこと、臭いこと。いや~な臭いです。
「この煙は有害で、これを吸うと死んでしまいます」
そう、住宅火災の際、人が死ぬのは、主にこの有害な煙が原因だと言われているのです。

聞いたり読んだりするのと、実際に目にする(嗅ぐ)のとでは大違い。
自然素材の塗り壁とビニールクロス壁では、さまざまな違いがありますが、大きな違いのひとつを実感した実演でした。


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漆喰をあぶると・・・


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土壁をあぶると・・・


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これはビニールクロスをあぶったもの





いろいろな人が興味をもつ左官壁

設営された会場には、いろいろな人たちが様子を見にやってきました。まず、「仕上がった泥団子は、家に持って帰って、どうするんですか」と聞いて来る人。

ほかに、置いてある塗り見本を見て、「これはどうやって模様を出しているんですか」、「どのくらいの厚みで壁を塗ればいいんですか」、「家の土壁と柱の間にすき間ができちゃったんですけど、どうやって修復すればいいんでしょう。自分たちでもできますか」・・・。塗り壁や土壁、左官仕事に対する質問が多く、いかに興味を持つ人が多いかが伝わってきます。

今年で6回目を迎えるこのイベント。きっかけは、ここ「江戸東京たてもの園」内の民家左官工事を勝又久治親方の師匠である金井洋平さんが請け負っていたことだといいます。イベント自体は、勝又雄一さんと三木さんとで始めたそうです。


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「塗り壁は、クロスに比べてコストと時間がかかるけど、やっぱり味がある」と語る雄一さん


「1回目のときは、1カ月くらい前から準備して。最初は、泥団子100個くらいは、かんたんに作れるって思ってたんだけど・・・。仕事が終わったあとに作ってたら、30個が限界。それから、作り方や材料をいろいろ工夫して・・・。6年目の今回はいちばん出来がいいんですよ。まん丸で、凸凹のない団子ができたから」と満足そうな表情の雄一さん。

形もキレイで、表面が滑らかな泥団子があるからこそ、こどもたちがピカピカに光らせることができるのだと納得。

今では、この2日間のために、勝又左官工業所では、1年近く前から泥団子づくりを始めるのだそう。土壁の材料で作った泥団子の上に、砂漆喰を塗り、乾かせば準備完了。そうやって用意するのは、なんと200個! それだけでも大変なことです。

また来年も、泥団子を通して、こどもたちと左官屋さんたちが交流できますように。多くの人に、左官屋さんと塗り壁に興味をもってもらえますように!

(取材・文 鬼久保妙子)

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