ちかば散歩⑫ 折りたたみ式ルーペ
蟻谷佐平 (編集員)
2015/01/07記
榎本新吉さん家に通いはじめた頃(24年前)の寸話からはじめます。ある日、紙苆の繊維をひとつまみ、明るい空にかざして視てごらんと、いつものルーペを渡された。
≪障子張り替えた時の紙屑から作った紙苆だからって、すべてが和紙繊維とはかぎらないんだよ、ほーらキラリと光ってるヤツな、洋紙が混ざってるんだよ≫
千石の工房の道具棚、折りたたみ式ルーペはいつも篩(ふるい)の並んだ棚の隅に置かれている。倍率6倍のルーペなのだが、覗いて視た世界によって、時に先入観や常識的な考えをくつがえされる。そして更に思わぬような美しさを発見する。そうした悦びを体験するうちに、次第に榎本師となにか共有する感覚が自然に宿ってくる。
≪土だってな、固まりをほぐして篩ってやるといろんなの出てくるんだよ。この砂もそうだ。ほーら覗いてごらん、すげぇだろう、宝石みたいだろう。こっちの砂もみてごらん、違いわかるかい?さっきの土塊とは違ってな、岐阜の増田(修)さんが送ってくれた土から採ったんだよ。アイツはすげぇぞ、いろんな産地のいろんな色土を識っててな、オレはそれを壁土に変えるだけなんだよ。色土の産地がかわるとな、中の混ざってる砂もかわってくるってぇ訳、アハハって面白いじゃないかい、そうだろう?≫
いつの日だったか、水土クラフトユニオン見学会(左官の集まる処。榎本さんはじめ、小林澄夫左官教室編集長、久住章さん等の提唱で始まった)で栗東(滋賀県)の陶土用採掘の山を見て回った。案内役の増田さんにより、広大に削り採られた崖地状の地層の縞模様の地質説明が行われた。陶土用カイロ目粘土(蛙目粘土)、キブシ粘土(木節粘土)、その他の黄色調の違いが堆積年代によって異なることが一望出来た。
≪あのムラサキ色の土、なんだい? ほう! 木節粘土ってのかい。いいなぁ、採ってほしいな≫
誰だったかが崖のてっぺん辺りの地層によじ登った。榎本さんは手渡された炭化した木片混ざりの土塊をルーペでしげしげ眺めて、
≪やっぱり関西の土色は色々だなぁ。嬉しくてしょうがねぇな、恋人に遇えちゃったな。帰ったら早速試さなきゃな・・・・≫
さて、今日は七草粥の日です。
曰く、「その年1年が健康で、平和に暮らせるようにとの意味を込めて、七草粥を食べます」。皆さまは如何だったでしょうか。ぼくはお茶漬けで済ませましたけど (×)。