手作りのチリボーキ
久住 章
■09 チリボーキを作って
長田幸司
1.はじめに
2005年2月、鏝鍛冶と左官の交流会に参加したとき、講師の方々が中塗りの実演をしてくれました。その時、久住さんの作ったススキのチリボーキがとても使いやすそうで、しかもかっこよかったので、自分も作りたくなり、その年の秋から(ススキのチリボーキは、10月頃に採って作るため)毎年、ススキのチリボーキを作っています。その後の講習会でもススキのチリボーキの作り方をくわしく教えていただき、何度か作ってみたので、自分なりに使いやすいチリボーキを作れるようになりました。また、作ることがおもしろくなり、籐、チガヤでもチリボーキを作ってみました。
籐のチリボーキの材料は、よく旅館の脱衣場に敷いてある籐のマットです。何年か前、箱根の旅館で大きな改修工事があり、そのとき現場に捨ててあった籐のマットをもらって使っています。7mmくらいに裂いた籐を糸で結んであるだけなので、糸を外せば一本一本バラバラにできます。ばらした籐は糸が通っていた所をさかいに表のツルッとした硬い所と内側の所に二等分に裂きます。糸を通した穴にそっていけば手で簡単に裂けます。作りたい大きさのチリボーキに合わせて、籐を切り、必要な本数を水の中に浸け、一本ずつ木槌で叩いて籐の繊維をばらしていきます。この時強く叩きすぎると繊維を傷めるので、注意して叩きます。叩いた籐はまた水の中に浸けて同じ作業を繰り返します。(このとき表面の硬い所はより念入りに叩く)何度か繰り返すと籐の繊維をほとんどばらせます。糸でまとめてから叩くよりも先に一本一本叩いたほうが、均一に繊維ができ、繊維を傷めにくいです。また、籐は硬いので繰り返し叩く必要があります。ほぼ繊維になったら水から出して一本ずつ並べて完全に乾燥させます。(乾燥が甘いと後で結んだ糸が緩んでくるので)乾燥したら糸で束ねて、チリボーキの形にして、最後にサンドペーパーをチリボーキの先にあてて完成です。
チガヤのチリボーキは、いつもお世話になっている湯河原の左官、山崎さんが使っていて、とても具合がよいと聞いて最近作り始めました。山崎さんの若いころは、もともとワラでチリボーキを作っていたが、ワラはしっくいに使うとアクが出るのでチガヤのチリボーキがよいと職人に教わったらしいです。チガヤは河川敷に生えていることが多く、僕が採っているのは小田原の酒匂川の河川敷。背丈は50~60cmほどで穂は付いておらず、根元から切って、根元をチリボーキの毛先に使います。採る時期は、だいたい10月頃です。チガヤはススキと似ているので、作り方は久住さんに教えていただいたススキのチリボーキとほとんど同じです。大きく違うところは、チガヤは芯を抜かずに一本そのままを使う所です。
ススキ、籐、チガヤ、それぞれ作ってみて一番手軽にできるのがススキのチリボーキで、籐は一番時間がかかります。繊維の硬さによって、繊維を叩き出す手間がかなり違うようです。腰が強いのは籐、次がチガヤ、ススキの順番で、長い間使っても籐、チガヤは腰の強さが持続するようです。それぞれ仕事の種類によって使い分けしたらいいかなと思います。
初めてススキのチリボーキを見たとき、山に生えているススキでこんなにかっこいいチリボーキを作れるものかと不思議な感じがしましたが、実際に自分で作って使ってみると、使いやすく、また仕事に対する意気込みというかテンションも上がって、「今日もよい仕事できるよう頑張ろう!」みたいな気持ちが自然と湧いてきます。毎年青々とすがすがしく生えてくるススキやチガヤを、毎年作り続けていけたら幸せです。
2.トウとチガヤで作るチリボーキ
①トウ素材 旅館で拾った籐製のマット
②トウを2等分に裂く
③トウ製のチリボーキ 18㎝
④チガヤを採取 根元を毛先に使う
⑤チガヤの根元(毛先)を叩いたところ
⑥チガヤを加工して束ねてみたところ
⑦チガヤ製チリボーキ 中 24㎝
⑧チガヤ製チリボーキ 大 27cm
⑨左から籐→ススキ→チガヤ製チリボーキ