伝統の木組みで建てた、木と土壁の家 (連載第2回:工程編)
山屋妙子(編集員)
土づくり
「土は寝かしたほうがいい」と話す河西さん。ワラを入れて寝かして、しばらくしたらワラが溶ける。そこにワラを足して、練るときにもまた追加して・・・。
ワラが溶けると粘りが出て、作業性が良くなる。水に強くなる。さらに、納豆菌のおかげで「悪い菌がすみつかない」とも。
泥の山!
河西さんは「人のつながりは大事です」と力を込める。小松左官工業の代表・小松七郎氏、(株)岡田建工(名古屋)代表取締役・岡田明廣氏の協力によって、よい土を仕入れることができたのだそう。
土に混ぜたワラは地元産。河西さんが地元のホームセンターのほか、あちこちに電話をしたり調べたり・・・。
土1立米に対し35kg弱のワラを混ぜた。全部で210kg。ワラは押切(おしきり)で切って使う。切るだけでも大変な手間だ。
さらにワラを足す
そして混ぜる
竹小舞
竹は滋賀県産。滋賀の左官、小林隆男氏の紹介で手に入れた。「小林さんありがとう」と河西さん。
屋根勾配の竹小舞
荒壁
荒壁を塗っているところ。片面が乾くまで1週間~10日くらいかかる。乾いてからもう片面を塗る。「そのほうが早く乾くし、収縮(ひび割れ)も少なくてすむ」と河西さん。
6月の梅雨時に荒壁を塗ったものだから、なかなか乾かなくて竹にカビが生えてきた。それは天然のままで竹に防腐剤を使っていない証拠でもある。扇風機を回して乾かすことにしたが、片面乾くまで時間がかかった。
貫伏せ
い草を伏せ込む。い草はたたみをほぐしたもの。
斑(むら)直しと中塗り
斑(むら)直しは2回塗る。「荒壁はすごく収縮して凸凹になる。それを平らにする」わけだ。
中塗りは2回。
ちりじゃくり
柱には、土壁を塗るために「ちりじゃくり」を施す。幅5分、奥行2分。「ちりじゃくり」がないと、塗った土がやせた(収縮した)ときに、すき間ができて向こうが見えてしまうのだ。
ちりじゃくりをほどこす油布さん
外壁塗り
外壁の材料は土、消石灰、貝灰、骨材(砂)、麻、苆(すさ)。すべて天然素材。土はそれぞれ沖縄、京都、小牧(愛知)産を使った。
外壁の仕上げサンプル。土と石灰が1:1。中塗土が乾いてから仕上げを二度~三度塗りした。「材料(土)によって、骨材の分量を変えないとひび割れしたりすることもあるので、塗ってみないとわからない」(河西さん)。
何度も試してみる。
外壁仕上げサンプル
こうして現場ごとに新しい材料を何種類もつくり、サンプルを何十も用意する。「同じことをやるんじゃ進化も発見もない。新しいことをやってみるほうが楽しい。やってみると楽しいより悩みのほうが多いけど(笑)、これとこれと混ぜるとどうなんだろうって、ゾクゾクするほど面白い。石灰と土の対比によって性質が変わるし、仕上げ方も変わる。同じ鏝押えでもやり方が変わってくる」と河西さんは明るく語る。
瓦
瓦は三州瓦。
大工道具
油布さんの大工道具(一部)。刻み用の鑿(ノミ)は三木の鍛冶屋さん、新潟の鍛冶屋さんに作ってもらった。
土台と基礎
土台は足固め工法。社寺仏閣と同じつくり。「建物の構造は土台を使って、基礎と連結せずに、足固め工法で沓石に柱をのせています」と油布さんから説明があった。
こうした構造では湿気によって土台が腐ることはない。さらに柔構造で揺れを吸収するわけだから、地震にも強いと言えるのではないか。だが、油布さんは慎重だ。「実際に地震の力がどのように建物にかかるかによって、建物の動き方が変わると考えています。まだまだわからないことがたくさんあります」
素人からみると、足固め工法と伝統の木組みでつくると、建物は100年も200年ももつだろう、とすぐに思ってしまう。その点について、油布さんがくわしく教えてくれる。「100年もたせる家をつくるためには、手入れがされている健全な山によって得られる木材の品質や乾燥の仕方、期間が重要な要素です。同時に、木組みの組み方、刻みの正確さ。これらは大工の技術面ですが、かなり耐用年数は左右されます。そして壁土など材料の選び方から使い方などのいろいろな要素も加わりますから、かんたんに100年もつ、とは言い切れません。今、自分にできる限りの技術と知識を出して、一生懸命普請した結果がこの家であり、100年後もそのまま建物があり続ければ、それが答えだと」
油布さんが挑戦し、精魂込めてつくった結晶がこの家なのだとあらためて感じ入った。
【第3回は対談編をお届けします】
<連絡先>
■大工 油布 剛
埼玉県飯能市大字岩渕字門神491-3
tel.042-978-8836
fax.042-978-8838
■左官 河西左官 河西 栄
東京都板橋区熊野町6-11
tel.&fax.03-3973-5597