伝統の木組みで建てた、木と土壁の家 (連載第1回)
山屋妙子(編集員)
広い敷地にかわいらしいこじんまりとした平屋建てが立っている。妻側から見ると、瓦屋根は少し丸みを帯びた勾配で、やわらかい感じを醸し出している。
場所は埼玉県飯能市。大工さんが建てた自分の家だ。ここに妻と子どもと昨年暮れから住む。
名刺には「木造建築普請(もくぞうけんちくぶしん) 作事庵(さくじあん) 大工 油布 剛(ゆふ ごう)」とある。合板を使わず、地元産の杉と檜(ひのき)で建てた。
驚いたのが構造にクギは一切使わず、継手、仕口と呼ばれる木材を組む工法で建てていること。床は高いし、風通しはよいし、まるで木造のお寺さんのつくりのよう。
1本1本の木にほぞを作り、ほぞ穴に差し込む。すべて手で刻む手作業だ。
刻みに半年も要した。そして、木と木を組んでいく。柱に貫を止めているのもクギでなく、込栓(こみせん)。込栓一つとっても全部で800本も使っている。大変な手間ひまがかかっているのだ。
壁という壁、すべてが土壁
壁はすべて土壁。河西左官の河西栄さんが竹を組んで泥を塗り付け、中塗りで仕上げた。屋根の下の壁は木ずり下地にまず漆喰を塗り、その上に泥を塗っている。
木ずりの上に砂漆喰
その上から泥土を塗る
荒壁(泥壁)用の泥は1年以上前から準備。ワラを混ぜ込み、ワラを足し、“熟成”させた(寝かせた)。寝かせれば寝かせるほど、水に強くなる(耐水性)。作業性も増して(塗りやすくなり)、壁に適した泥になる。「文化財の文献にも、日本の壁土は半年以上寝かせることと書いてある」。河西さんが教えてくれた。
居間とキッチン
居間から和室へとゆるやかに続く空間
土間は三和土にする予定。
外壁はすべて大津(1:1の割合で土と石灰を混ぜたもの)の仕上げ。面によって色が異なり、表情が豊かだ。淡い黄色や薄いピンク色が美しく冴える。河西さんがサンプルを数種類作り、油布さん夫婦が選んだ。
玄関
やわらかい色合いの外壁
「伝統的な木と土壁で建ててみたい」
現代で、これほど手間をかけた木と土壁の家を新築することはあまり耳にしない。油布さんに問うと、「やったことがないからやってみたいと思った。いろんなことを試したい」とあっさり。
「日本の風土に合っているって言われているけど、自分じゃわかんない。研究者の言うことじゃなくて、経験・実感しなくちゃわかんないんじゃないか、と。大工が感覚でわかるものって違うから、建てて住んでみて、自分の知識として蓄積しておきたい」と考えた。そして、昔ながらの金物を使わない伝統的な工法で家を建てることを決めたのだそうだ。
でも、なにも情報がなかった。現代は伝統的な工法で建てる家はとても少ない。だから自分で大量の情報を集め、調べて、本も読み勉強した。知れば知るほど伝統的な木と土壁の家に魅力を感じた。そして河西さんという左官屋さんと知り合い、土壁自体のこと、土壁用の柱、竹小舞・・・と様々なことを教わりながら、協力して作業に臨んだのだ。
こうして完成した家の中は空気が澄んでいて木がほんのりと匂い、なんとも心地よい空間になっている。
【第2回は工程編をお届けします】
<連絡先>
■大工 油布 剛
埼玉県飯能市大字岩渕字門神491-3
tel.042-978-8836
fax.042-978-8838
■左官 河西左官 河西 栄
東京都板橋区熊野町6-11
tel.&fax.03-3973-5597