山屋妙子連載3

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伝統の木組みで建てた、木と土壁の家 (連載第3回:対談編)

山屋妙子(編集員)                                   



2013年9月某所にて


湿気のない生活

―――引越してから9か月ですが、どうですか、住み心地は。

油布さん 2012年12月28日に引越して、冬の間、ファンヒーター2つ、石油ストーブ1つでなんとか過ごせました。構造上、床下を風が抜けるんで、寒いです。夏は快適ですよ。猛暑だったこの夏でも扇風機だけで過ごせましたから。お客さんは、中がひやっとする、すずしいって言ってくれる。

朋己さん(油布夫人) いやいや、真夏日は暑いです。来年はエアコンつけないと・・・。(笑)

油布さん なんと言っても、湿気が少ないんですよ。外が湿度80~90%のときでも、部屋は65%。雨が降ってるとき、外は湿度100%近くになってても、部屋は75%くらい。

河西さん 計ってるんですね!

朋己さん ほんと、洗濯物がよく乾く。仕事から帰ってきて洗濯して、夜部屋に干しておくと、朝には乾いているんで、ビックリしました。どんなに湿気がある日でも、除湿機がいらないんです。今までクロス壁の普通の家に住んでたんですけど、湿気がある日は洗濯物は全然乾きませんでした。

河西さん 壁が呼吸しているわけだから。それが土壁の家と一般の家と違うところ。ボードの上に薄く塗ってるだけだとそれほど感じないかもしれないですね。油布さんの家は壁がすべて土だから。小舞組んで、泥塗って(泥壁)、それからまた土を塗ってるから。でも、そこまで違いを感じるんですか?

朋己さん じめじめ感がない!

油布さん 家に帰ると、夏でもひんやりとしている。

河西さん 木の匂いがするし、空気が違う。安らぐ。

朋己さん 慣れちゃったからよくわからないけど、人が遊びに来ると、木の匂いがするって言います。

油布さん 今回は泥壁の部分がほとんどですけど、たとえば木ずりだけでやったら、どれくらい違うのか、差が出るのか・・・。

河西さん 油布さんの家は泥壁だけで7cmも泥を塗っているから。厚く塗ったほうが調湿機能は働くんじゃないかな。でも、木ずりだと空気層ができて、それがいい方向に行く場合もあるかもしれないね。

油布さん 厚みって大事ですよね。

河西さん 人間がもっと敏感だったら違いがわかるんじゃないかな。コンクリートの建物は調湿機能が少ないから、エアコンなしじゃいられない。

油布さん でも、自然災害を考えると、特に津波にはRCは強いのかな、とも思う。





なんでも素材が大事

―――木造でも、柔構造で揺れを吸収できるって聞きましたけど。

油布さん 結局、材木の品質にかかっているんじゃないかと。現状は、山の手入れを行える山主さんが少なく、何十年か先には、いい木材が手に入りづらくなるだろうと思っています。日本では林業ができなくなって、山が保水できなくなっている。大問題です。国産木材を適材適所に墨付けして、木材を生かした使い方をする大工が少なくなってきているのも問題です。
ところで、土に混ぜる素材としての砂はどうなんでしょう?

河西さん いいところには川砂を使います。海砂は酸性だから、錆が出る。それを表情として楽しむ仕上げもある。砂でも木材でも石灰でもなんでも、用途や仕上げによって使うものが違ってくる。

朋己さん 仕上げって言うと、土壁があんなに丈夫だと思ってなかった。なんか、ぼろぼろとどんどん落ちるというイメージがあって。うちは子どもがいて触りまくるし、どれだけ落ちてくるだろうって、実は思っていたんです。それが、全然落ちない。

油布さん あそこまで落ちないとは思わなかった。

河西さん 土がいいから。粘土分があって、よくかたまる。自然の力で固くなるわけです。いい土を選ぶのも左官の醍醐味です。今回の土は岡田さんと小松さんのおかげで手に入れることができました。(工程編参照)岡田さん、小松さん、ありがとう。

油布さん 材質って大事ですね。建具屋さんが気を遣ってくれて、いい材料を使って本ふすまを作ってくれたんですけど、軽くてひずみが少なくて驚きました。

―――自宅周りでは今、何の作業をやっていますか。

油布さん 物置を作っています。すべて手きざみなので、1日1枚しかできないけど。そうやって、やっぱり経験を積んでいかないと。

河西さん 長いこと同じことをくり返して経験を積んで、やっと得るものがある。

油布さん いい仕事ができるか、いい材料を使えるかって、ありますよね。あとは、夏に河西さんに協力してもらい、泥壁のワークショップをやりました。子どもを集めて、塀の部分を。泥土を練って、竹小舞を組んで、泥土を塗り付けて・・・。暑かったですけど、子どもたちが生き生きとした表情をしていました。


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はだしで楽しそう

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柔構造の家で職人さんたちから学ぶ

―――ところで、今さらなんですけど、なんで泥壁にしようと思ったのですか。

油布さん 大工の世界では、「伝統工法」っていう言葉が一人歩きしちゃってて、どういうものなのか実際に知らなくては、と。そんな時に、国交省の柔構造についてのセミナーがあったんです。参加してみたら、いろんな意見があって、自分も意見を言いたいんだけど、やったことがないから何も言えなかった。泥壁、土壁がどういうものか知らないと、なにも言えない。泥壁の家に住んでみて、良さと悪さを知りたい、って思ったわけです。

―――木ずりにしようとは思わなかったのですね。

油布さん ええ。木ずりにすると、クギをたくさん使います。そうすると、結局壁が“柔”でなく“剛”になってしまう。“柔”にするなら、小舞にしないと。柔構造を知らなかったから、知りたかった。

―――柔構造の家って今は少ないですよね。

油布さん そういう現場があると、いい職人さんから話が聞ける。今回の自分の現場でもそうでした。左官の知識をなにも自分は知らなかったのですが、たくさんの知識を河西さんから得ました。大工面だけ言っても、学ぶことばかり。刻みの精度は使う材料の硬で変わってくる。結局、いい木材を使わないといいものはできないんです。刻みは、ひとノミ違ったら、ゆるくなっちゃう。1厘、2厘で変わっちゃう難しさがあります。

河西さん 建てる前に親御さんが心配したとか。

油布さん 柔構造でやってみるなんて、失敗するんじゃないか、って親が心配して、大反対でした。大工の仲間どうしでも、「やってみなよ」って言う人は一人もいなかった。労力かかるし、なんでやるんだって。板金屋さんも「ほんとにやるの?」って。

河西さん 冒険や挑戦って、ワクワクドキドキの連続で、それが楽しいのにね。楽しい、面白そうだと思えることが大事ですよね。

油布さん やってみたら刻みに半年、建築申請で半年と、えらい時間がかかりました。それから、価値観をわかってくれる人を探して。そうやって見つけた職人さんたちは、こちらが考えている以上にいいものをつくろうと提案してくれた。河西さんはいくつもサンプルをつくって提案してくれたり、土壁を塗るための柱のことを教えてくれた。板金屋さんは、玄関の下屋の板金工事で、寸法を工夫してくれて。「こうやったら見た目がよくなるよ」って。





築いたネットワークが宝

―――どうやって職人さんたちを探したのですか。

油布さん ネットで。河西さんもそうですし、さきほどの板金屋さん、建具屋さん、瓦屋さん、材木屋さん、土建屋さん、鍛冶屋さん。まわりじゅう反対だらけでしたが、味方してくれたのが職人さんたちです。

―――素晴らしい職人さんたちの集まり、ネットワークができたのですね。

油布さん これからもこのネットワークでずっと仕事をしていきます。

河西さん 仲間ができたのは大きな収穫ですね。これからもいろんな材料を使って、みんなでいい品質の家をつくっていく。それで、それぞれ工夫していくのが進化だよね。そうして未来につながっていく。考え方ひとつなんだよね。自分の生き方として、どうしたいかっていう。



志があり、こだわりを貫く大工さん、それを全面的に応援する左官屋さんと仲間たち。こうした職人さんたちによって、日本の未来と文化が築かれていくに違いない。

対談を終えて、河西さんの言葉が印象に残っている。「コンクリート住宅より、木造住宅のほうが長く持ちますよ! 結局得しますよ!」
木造の泥壁の家に住みたい。素直にそう思う。ほんとうの意味でいい家を持つことを、たくさんの人にすすめたい。将来を担う子や孫のためにも。
木と泥壁の家を持つことがごく当たり前になる。そんな日本の姿を夢見ていたい。

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河西さん


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2013年夏に行ったワークショップ。後列左端が油布さん。前列右から2番目が朋己さん。




<連絡先>
大工 油布 剛
埼玉県飯能市大字岩渕字門神491-3
tel.042-978-8836
fax.042-978-8838

左官 河西左官 河西 栄
東京都板橋区熊野町6-11
tel.&fax.03-3973-5597

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