久住氏新連載6

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手作りのチリボーキ

久住 章

■07 各種塗り壁とチリボーキ


1.土壁用チリボーキ


(1)中塗り用
シュロ、ジュート、ススキ、籐、パキン、その他種類に関わらず、中塗り用チリボーキには太めで長く毛先の幅が広く毛も多いものが向く。一般的には、上塗りより中塗りの時の方が汚れは多い。チリボーキは毛の間に汚れをからめ取って使うので、毛が少ないと洗う回数が増えることになる。
つまり、多毛で幅広の方が有利になるが、壁の大小に合わせて使い分ける。使いこなされた中塗り用チリボーキは上塗り用に転用される事が多い。

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(2)上塗り用
一般的に上塗り用は中塗り用よりも小さく作られる。汚れる量が少なくチリ掃除の時、チリ際の上塗りに食い込まない様に(チリが切れる)毛先を薄く作る。壁の形や大小に合わせて適うチリボーキの種類を増やす。

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上記の二つの図は一般的なサイズであるが、好みによって大きく異なるものもあるが、実践的に適えば問題ない。




(3)アリ壁
アリ壁のような細長い壁やその他の小さな壁には細幅のチリボーキが必要である。その細長さゆえ柄が歪みやすいため、柄の芯に竹串を入れて補強する。細くてもある一定の長さを確保しないと、バケツを叩いて水を切る時に使いづらい。全体の長さは普通の上塗り用より少し短いくらいである。
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2.漆喰用チリボーキ

石灰系はチリ掃除が最も面倒な材料のひとつである。木の色とは反対に多くは単一白色(着色もある)であり石灰粒子が細かく、しかも付着力が強い。チリ掃除の時1回拭きで汚れが取れたと油断していると、乾燥後に薄く石灰跡が浮き出てくる場合がしばしば発生する。従ってチリ掃除は注意深く丁寧な作業が要求されると同時に、小道具のチリボーキの品質に左右されることになる。前述した様に汚れの粒子は毛の間で“からめ取る” ので、毛は細く量が多いほど有利になる。但しこの状態は水の切れがよくない状態でもある。

形状のよいチリボーキでも水分を多く含んでいては、汚れを取る事はできない。つまり上記の条件上で水切れがよいチリボーキが要求される。その時にバケツも水の量も多く入れた肉厚の木製手桶を使うと具合がよい。プラスチックの様な軽いバケツは水切れが悪い。土壁よりも水切れをよくしたチリボーキで繰り返し拭き取りながら漆喰の汚れを完全に除去する。

このため、漆喰用チリボーキは使い込まれて毛が細く多毛で、毛先は幅広がよい。






3.古い木目の浮き上がった木部(柱・梁等)のチリボーキ

木目の浮き上がった木部とは、風雨による経年変化や室内における雑巾掛けなどによって生じるのだが、この柱や梁などのチリ掃除は大変やっかいなものである。最近でこそマスキングテープ等の養生用テープがあるが、それでも少し汚れが残る。
この様な場合、土壁用の薄い毛先では対応できない。左図の様に毛先が太めで繊維がしっかりしており、2番毛、3番毛と木目に入り込む形状のチリボーキがよい。
但し、この形状は木目の中の汚れは掻き取る事はできるが、薄いシミの様な汚れまでは取り切れないので、同じ箇所をトウ(籐)製チリボーキの様な腰の違うもので再度拭き取る必要がある。
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4.石目のチリボーキ

特に土蔵や古い木造の場合、基礎に自然石やビシャン、小タタキなどの凹凸のある石が使われている。これらのチリ掃除は普通のチリボーキでは汚れが落ちにくい。
これに適うチリボーキは多毛で幅広がよいが、それでも穴の中に入り込む汚れは取りづらく残る。
このような場合は左図のような形状がよい。即ち、毛先が硬くしっかりした繊維で頭が短く太めで毛先が鈍角の形状が使いやすい。
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5.下地窓や面戸、小細工用のチリボーキ

下地窓には丸い竹や葦(ヨシ)、蔓(ツル)のような細い仕上げ材が施されて普通の形状のチリボーキではチリ掃除ができない。これらは毛筆や絵の具筆のような毛先が向いているので転用すればよい。これらの筆はいずれも柄が細く作る事が難しいので、既製品の筆をお勧めする。昔は絵筆を使っていた。






6.海苔(糊、ツノマタ)、樹脂入り材料とチリボーキ

ノリや樹脂入りの材料は粘性が高いため、汚れが簡単には取れにくい。本来、中塗りであれ上塗りであれ、また材料に関わらず塗りつける前にあらかじめチリをチリボーキで湿らせておく。これは木部に汚れが染み込む防止及びチリの乾燥を防ぐためである。

特に樹脂入りは少しでも乾燥するとこびり付き取れなくなる。この様な材料の場合は同じ箇所を2回以上チリ掃除する。使用するチリボーキの形状や条件は漆喰用と同種である。





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