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ちかば散歩② 武相荘に 鶴川駅(小田急線)~柿尾駅

蟻谷佐平 (編集員)

2012/05/18記


武相荘(ぶあいそう)。その名の由来は「武蔵の国と相模の国の境に位置する」事と「無愛想」を掛けたもの。白洲次郎・正子ご夫妻が戦中・戦後に住んだ旧邸宅。いま資料館・記念館として一般公開されている。 

染織家志村ふくみさんのエッセイ集「一色一生」には草木染めを通じて語る芸術や人生観、自然との対話において深い洞察力をなめらかな文章で綴られている。その文章のあり様は白洲正子さんとの交流に学ぶことが大きかったと、ご本人のなにかの記事で知った。

昨年の秋、その白洲正子さん所縁の美術品の公開が府中市美術館で行われて友人Fと共に訪ねた。もとより白洲ご夫妻のことは、いわく「伝説的な逸話」を断片的にわずかながら知っていたから、「武相荘」にいつかは訪ねたいと思っていた。

白洲次郎さんの逸話になるが、「俺たちは戦争に負けたかもしれないが、奴隷になったわけじゃない」と、敗戦後直後の(GHQとの)日米交渉に際し、(「従順ならざる唯一の日本人」と呼ばれ)堂々とした態度で臨んだ。Fは(自身の英国遊学の経験から)「英国ではプリンシブルと評することがあるが、難局に気骨をもって渡り合ったヤツだな」つづけて「彼は英国留学のときにスポーツカーで欧州を旅してるんだ」と車の話に。(当時の車好きなヤツをオイルボーイと呼んだらしい)。

で、武相荘めざして行こう。週末(四月中旬)、Fを誘って代々木上原駅から鶴川駅下車。駅前のCoCo一番鶴川店で昼食、オムレツカレーに満足。武相荘に向けて春の丘陵地を上ること30分。途中、市街地化が進んでいるとはいえ、緑の若葉が美しい。今年は桜と梅の花がおなじ時期に咲いていて、ウグイスの鳴き声が聞こえてくる。梅に鶯かあ、と花札の図柄を連想して告げた。途端、Fはあきれ顔で「それは違う。梅の木にとまっているのはメ・ジ・ロ。ウグイスは草むらのなかに潜んで鳴いているよ」。それは知らんかったとは云へ、にわかには・・・。

他愛ない話をしているうちに武相荘に。入館料1000円払って入場、すぐ先の長屋門手前の左手に次郎の乗った黒光りの愛車が展示。Fは前輪の前でしゃがんで覗きこみ、メカを詳しく説明しはじめた(かつてFはフォード、VW、BMWに勤めていた技術屋)。さて、長屋門から先へと思いきや進めない。飛び石の間隔、段差きつく、車椅子では無理。仕方なく、主屋の茅葺、漆喰壁の外観をじっと観てあきらめることに。でもきてよかった、数年の思いがやっと叶ったのだ。

仕方なくまた黒光りの車の前でしばし談義。なになに、次郎18才のときに父からアメ車(ペイジ)を買ってもらったって書いてあるな(Fによれば家1軒分はしただろうな、と!)。 英国留学のときはベントレーやブガッティに乗ってたんだって。すげぇなあと嘆息。いや俺だって同じ18のときにさ、軽のスバル・サンバー低床式買ってもらってセメントや機械運んでいた。いや、俺も同じ18のときに同型サンバーで酒や味噌・醤油、炭俵・石油缶運んでいたさ。そう、お互い稼業手伝いながら、合間に学校通っていたなと自慢話も、比較にならない格差に笑うしかない。

帰り道、そこから丘陵下りてしばらく川伝いに鶴見川合流地点へ。も少し歩くかと王禅寺辺りをあてずっぽうに花咲く春の野辺を蛇行。(道端の石碑によれば)奈良・三輪山と所縁があるという旧三輪村(地区)云々は本家の里を彷彿させるかのようなのどかさ。結局、柿生駅までの一駅散歩に3時間半歩く。途中、やはり桜・梅満開の方からウグイスの鳴き声も。地べたの草むらで鳴いてるウグイスって、にわかには?

王禅寺は王禅寺柿でもよく知られている。秋の実るシーズンに訪ねれば喰えるかも知れない。それにこのあたりは古くからの社寺が多いから、よい白壁に、よい土壁に出合えるかも知れない。望みをもって、もう一度来る場所と思った。


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素敵な母屋(速水諄一撮影)と黒光りの車。.
※写真はHP武相荘による。
http://www.buaiso.com/index.html
なお、速水諄一氏のブログには、武相荘母屋の茅葺屋根葺き替え工事記録写真が掲載されています。



武相荘施設概要 (HP武相荘から引用)
■名称: 旧白洲邸 武相荘(ぶあいそう)
■住所: 〒195-0053 東京都町田市能ヶ谷7丁目3番2号
■電話: 042(735)5732
■メール : info@buaiso.com
■開館時間: 10時~17時(入館は16時半まで)
■休館日: 月曜日・火曜日(祝日・振替休日は開館)
夏季・冬季休館あり ※企画展ページを参照下さい。
■入館料: 税込 1,000円(税額47円)
(小学生以下の入館はご遠慮ください)
※団体割引&シルバー割引の設定はありません。
※乗用車5台の駐車スペースをご用意しています。(バスは駐車できません)
※館内でのご飲食はご遠慮ください。(飲食物の持ち込み等)
※母屋の展示をご覧になる際、靴を脱いでお入り頂いております。
■食事: お弁当は当分の間中止とさせて戴きます。
■喫茶:
お抹茶(単品) 税込400円(税額19円)
お抹茶セット 税込800円(税額38円)
コーヒー 税込400円(税額19円)

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