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ちかば散歩① 塗り壁隊の現場を訪ねて

蟻谷佐平 (編集員)

2012/05/17記


このところ、週末は友人Fと「ちい散歩」(某局TV番組)をまねて「ちかば散歩」をしている。東京の街中をあてどなく歩きながら、罪のない四方山話をして愉しんでいる。行く先はその日の気分まかせだが、うっすら汗かくあたりの距離を歩いている。最寄りの駅「代々木上原」(小田急線)から足を伸ばして都心や下町、そして郊外に行くこともある。そのようなときも、到着駅からは歩いてまわる。かつてふたりとも車で走りまわっていたから、(較べていえば)いまは歩く速度(ボクは電動車椅子だが)ではじめて気づく街の空気感、情景を背景に還暦をとうに越えた者の愉しみに歩いている。車に関わったFと左官屋だったボクらの人生は相当ちがったが、同窓のよしみがいま生きている。

先週(5/6)は乗り換えながら阿佐ヶ谷駅(JR中央線)に降り立った。駅南口からアーケード商店街(阿佐ヶ谷パールセンター)の長い路を往復、途中、中華食堂「日高屋」で今期はじめての冷やし中華+餃子セットを昼食に選んだ。店を出て歩くのはどこでもよかったが、北口の小さな構えの飲食店が雑然と軒を並べたあたり、阿佐ヶ谷スターロードに向かった。むかしの面影を嗅ぎながら歩いていると、ラピュタ阿佐ヶ谷の建物があらわれた。Fに「むかし久住さんのやった仕事だよ。外壁を地層仕上げと呼んでたんだ・・・」。10余年を経た外壁はそれなりの経年変化が加わり、新築時より味わい深く感じられた。この日はラピュタから天沼(地名:Fの説明では井荻・天沼地下水堆という珍しい地層)周辺、日大二高(Fの母校、50年ぶりに訪問)構内の銀杏並木、荻窪駅までの「一駅散歩」と洒落た。

塗り壁隊。13年前に結成された塗り壁隊。丸めていえば左官好きのアマチュアの集まりだ。先日(5/13)、このグループが陶芸教室になる室内改装工事で石灰クリーム仕上げを施すとメールで知った。場所は西荻窪駅(JP中央線)から徒歩5分の松庵(地名)。近い、近いな、家から現場に1時間ちょっとで行けるな。Fを誘って東大駒場前駅(井の頭線)~三鷹台駅下車、北に向かって徒歩30分で松庵に着いた。着いた場所で現場を探した。この界隈、アンティークショップ、ギャラリー、○○教室、喫茶店、エスニックカレー店、輪島功一(ボクシングの)スタジオetc、となにやらのにやりとしそうな通り路(地元マップに西荻茶散歩とあった)。その路の十字路を折れてすぐに現場をみつけた。

メールでは室内壁石灰クリーム仕上げ、40㎡とあった。たぶん、数名が集まっているのかと思った分、驚いた。ざっと掴めば隊員20余名はいたのではないか。女性隊員も過半占めていたように思う。午前中に塗り終えた壁の石灰クリーム仕上げは金鏝で押え切ったツルピカではない。外からの陽ざしによって、ツブザラの肌に不規則の陰影がみとめられて美しい。南にひらいた窓から朝は朝日の夕は夕日の陽ざしの動きに遊ぶように陰影が移る仕合せがこの壁に宿っている。壁面のわずか0.1~1.0㎜の梨地肌はひとの手のうごきから生まれた。壁と相対した大勢のアマチュアの心を込めた仕上げに、ボクは安らいだ気持ちでいっぱいになった。

塗り壁隊。13年前に建築家・片山ご夫妻が始めた「結」のような集まり。その結晶を抱きしめて、今夏、南仏ニースに飛ぶという。



塗り壁隊01.JPG
塗り壁隊06.JPG(クリックすると画像が拡大します)

ホームページ「左官的塾」の“的”の意味。左官のプロ、アマを問わず左官好き=丸めていえば左官的なひとたちの集う居場所。
再び、塗り壁隊。その活動を伝えるブログをご紹介したい。

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■追記
ひさしぶりに片山ご夫妻にお会いした。彼の事務所に同じ的塾編集員・Yさんと訪ねてから数年経っている。そのとき何を話したのかその内容は忘れたが、部屋中に陽気な笑いが満ちていた印象が残っている。 片山さんは白髪白髭が増えた感じだが、相変わらず太い腕をして、なんとなくイタリア西部劇の夕陽のガンマンが似合いそう。奥さんはますます世話女房といった感じで、すこし太・・・いや、失礼。 較べて、こちらは頭頂部あたりに毛生えの気配すらないツルピカに。現場での挨拶で、彼は山口県、ぼくは広島県の出といったら、「わたしは愛媛なの」と女性隊員の声が。おおっぴらに「わしゃのー」「ほじゃけんのー」「そうしんさいや」と瀬戸内の方言が出そうになって、一気にココロがほぐれました。 隊員のみなさま、突然お邪魔しましたが楽しかったです。ありがとうございました。
(佐平)

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