泥狂記 第3回 (土と私)
河田繁行
目的に合った土を
左官の原点は手近にある地域の土に、スサ・砂等を加えて壁を構成したのが原点だといわれている。
現在では工業製品が時代の流れとして多用され、若い左官には、土を捏ねて塗ることが少ない職人も多い感じがする。
私は昭和56年頃から、左官用塗材は複合材と考え、古くから使用されている土・石灰・セメント等の組み合わせを考え直し、無機質の硬化剤を加え、用途によっては有機質の接着増強剤も少量ながら混入して、新しい工法に使用できる塗材が出来ないかと試行錯誤してきた。
現場に使用できる製品として、煉瓦(ブロックも含めて)・タタキ(2種類)・土蔵土塀の補修等に使用する。
工期の短縮が出来る塗土・洗い出しに使用する厚塗りの塗材(外部に使用出来る)等の塗材が出来、現場で使用している。
土はたしかに山口県では期間を置き、昔からいわれているように練り上げればすぐれた塗材で長所も多い素材である。
しかし、なぜ使用する現場が減少するか考えた時に、下記のようなことに気がついた。
●工期がかかる。
これは土の硬化を自然乾燥にまかせ、意図して土を硬化させることはほとんどなかった。
●土は塗材としては硬度が他の塗材より劣る。
これらは在来の建築では柔らかい感覚や、防音・吸湿などのすぐれた性質があっても在来工法どまりである。
現在は新築工事に土壁は少ないが、在来工法で作った土壁の補修工事は潜在的に需要がある。
発想を変えれば新しい分野に進出できる。
それには工期の問題は左官が主役でする工事の内、タタキ・土壁の補修(土蔵)等案外あるものであるが、意図的に土の硬化速度を早める工法はあまり聞かない。
●土の硬化が安価な塗材として、収縮が少なければ追っかけて塗り重ねが出来る。
●塗材は剥離することも少なくなる。
このように考えれば、健康を害することもない工法として、土の粒度や粘度・自硬性を調べて、目的に合った土を構成すればよい。
又施工上モルタルポンプで搬送できるし、混練りも早く出来る様にと、色々な性能も要求されても土は答えてくれる気がする。
神秘的な土という素材
H10年6月2日に河田組の定期点検を、かつて左官教室に発表した「山口県文化ホールいわくに」で行った。
この現場は大谷幸夫先生、神谷博先生の知遇を得て、園路と池にタタキ(瀬戸内タタキと命名)を施工し、左官教室H8年7月号に発表したが、その時に丸3年間経過すればこの工法も一つの山を越えたことになると書いた。
最初に心配した工場地帯の煤煙による酸性雨の対策で、塗面はむしろ硬化が進んで表面硬度は予想どおりであり、2年や3年で池も園路も塗材が脆弱化することはないと確信した。
岩国の施工以後、土を前述のように改良して、目的に合わせた塗材を作製することが出来、応用範囲も広くなり、現在では宇部市で土蔵の改修を行った。
職人の道は限りがなくて、一つの山を越せば次の山が見えてくる。
土という素材は神秘であり、複合材として塗材に捉えてみると、安価で耐候性のある塗材が出来る。
この一文はH8年7月号の時に書くべきだったが、発表する確信が持てなかった。
今回も土の改良については、配合表も書いていない。
これは土の粘度や粒度・自硬性が違うからである。
私は土の中に小砂利や荒い砂を混ぜているが、目的が違えば配合する材料も変えることがある。
私が意図したのは、土に混入できる無機質の安価な素材を用いることであり、いままでの左官の常識を超え混入したら、新しい用途があった。
この2800平米あまりの瀬戸内タタキの現場は、下地にコンクリートを打設しその上から施工したが、塗材の浮きや剥離事故がなかったので、3年を待たずに泥狂記として記した。
※河田氏ホームページ掲載記事より転載。 編集室にて文章の校正を行っています。