数奇屋建築(左官)を語る会

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現代の左官技の結晶

「数寄屋建築(左官)を語る会」より



■左官技を尽くした大舞台

6月25日(土)・26日(日)、伊豆修善寺温泉の「柳生の庄」において、「数寄屋建築(左官)を語る会」が開催されました。「柳生の庄」の改修後のすばらしい仕事を見学し、久住章さんがレシピや数寄屋について講演され、参加者が左官、建築、仕事等の情報交換をする、中身が濃い会です。

平成21年から「柳生の庄」の大規模な改修工事が行われ、その左官工事は、久住さんが持てる左官技を大いに駆使した大舞台です。久住さんは全国から腕利きの若い左官職人を集め、本格派数寄屋建築に求められる究極の左官仕上げを見事に表現することに成功し、左官の真髄を究めて作り上げました。

伊豆修善寺を代表する高級旅館「柳生の庄」は全てにおいて最高のおもてなしを誇る、海外からのVIPも多く宿泊される老舗です。伝統的な数寄屋建築の文化をたっぷりと肌で感じることが出来る名旅館です。

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その改修工事に要した左官職人は60日で延べ1300人工です。若い左官職人は久住親方から実際の本格的現場を通して、仕事の難しさ、厳しさを教わりました。この上ない貴重な経験を積んだ最高の場であったことは言うに及ばず、遠山記念館以来の、近年ではなかった左官の大事業を成し遂げたのです。


見学に先立ち、全員が集まり幹事の植田さんから開催の主旨の説明があり、小沼さんの司会で内覧および情報交換会が開催されました。
最初に久住親方より、3年前に「柳生の庄」のオーナーである長谷川さんと、鬼建築設計事務所の大西さんから数奇屋建築に相応しい左官仕事を依頼された経緯の説明がありました。また大西さんから、久住親方との出会いや、「柳生の庄」の改修工事の内容のうち、久住親方の指示により左官仕事が大々的に変更また拡大され、数奇屋と左官の考え方を知ることとなったが、改修工事は大変な仕事であったとのお話がありました。

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次に左官仕事について中須さんから各所ごとにそのレシピ、仕上げ、注意点等が発表され、重要な点では久住親方から詳細説明がありました。

[ポイント]
1.藁スサの種類・篩い方(飛び出し、さびき)により肌合いの違いを強調した
2.フラットに仕上げるのではなく、表面の鏝波を感じさせる仕上げにした
3.土をあえて浴室に使用し、湿気対策としてアクリルの接着材を吹いた
4.全国の左官屋さんのそれぞれ特異な鏝による仕上げが特筆できる 
5.露天風呂の下地つくりは左官がモルタルでその水平・アールを仕上げた
6.数奇屋作りの左官仕事がいろいろな技術・技能を駆使しているのを再発見した



■随所に光る左官の技術と技能

説明会の後の勉強会で久住親方が宮元 健次著『近世日本建築の意匠』を参加者に紹介し、400年も前に宣教師ジョアン・ロドリゲスが「数奇」と呼ばれる茶の湯の本質を正しく伝えていることについて講義されました。

勉強会の後、内覧に移りました。
玄関前のアプローチに入り振り返ると、そこにはとても爽やかな修善寺の風が吹いていました。

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これもおもてなし。

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玄関でお客様をお迎えする静謐とした大きなオブジェ(邪気払いの粽)です。
天井から下がる小壁のお洒落な下地窓の仕上げは、山本さんによる施工で、フリーハンドで縁取りを決めた秀作です。

お迎えの間の久住親方と女将です。

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お取り次ぎの間から玄関の方の眺めです。

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玄関からおもてなしの心が溢れるすばらしい空間です。
落ち着くムードのロビーに引き付けられるように入ってみると・・・

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蝶の錆壁(錆壁)ではありませんか。
註:蝶の錆とはC形の鉄線屑が蝶の形に錆びるものです。(写真にはこの形に錆びたものは写っていません)

むさしの湯
東屋の壁は蛍の錆になっています。(中心が錆、円の内部は元の土の色で輪郭が黒くボケる文様)

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間接照明で本当に蝶が舞うように美しく見えます。
ロビー全体が螢狩りに来たような楽しさで、旅の疲れが癒されます。
ひとつの錆が二重になって広がる仕上がりは、超美技の世界です。浅黄土にのみ出る錆です。

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[レシピ]
淡路浅黄土(5厘) 100g
淡路黄中土(5厘) 100g
珪砂(6号) 170g
つのまた 3g
中内ヒダシ(さびき) 10g
江井中スサ(飛び出し) 0.5g
醤油 100cc
鉄 1g


客室の中でも一番の贅をこらした離れの「松の生」です。部屋の仕様、庭園の眺めも最高の贅沢空間です。
その控えの間でくつろぐ皆さんです。空気がすばらしいです。可愛い化粧小部屋がとても粋です。

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■表現と工夫で味わいのある壁を

戸あたりどうしの狭い隙間にもきっちりと土壁の仕上げが施されています。

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天井見切りの仕上がりも、ここまでやるかの驚きの精度で決めています。

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久住親方こだわりの櫛型窓です。座って見る位置から計算された曲面は、単純な円弧にならないよう、工夫がされています。

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黒磨き面の仕上げも逸品です。

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この他、別の客間の火灯窓(花窓)にも親方のこだわりと、遊び心が組み込まれています。

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久住親方曰く、
「素材を感じる左官壁、一目で分かる味わいのある壁に仕上げる。均一の壁はクロスや吹き付けに見えてしまう。それを変えるには鏝まで作って仕上げ面の表現を考え工夫すること」


「柳生の庄」では、あらゆる土壁の味わいを楽しむことが出来ます。

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室内の土壁・・・

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廊下の土壁も・・・

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そして、各部屋の浴室の土壁も・・・

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どの壁も久住親方が若い左官職人さんを指導し、互いに納得のいくまで塗り付けて仕上げたものです。技はもちろん、心のこもった塗り壁は美しいものです。



■洗い出し・研ぎ出し・掻き落としも美しく

さて、離れに向かう階段、通路、渡り廊下にさらなる左官の技が、繰り広げられています。
階段を上がると・・・

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灯りの下に何とも美しい洗い出し・研ぎ出し土間仕上げが浮かび上がっています。階段自体がその作品なのです。

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丁寧に仕上げた面は愛おしくずっと撫でていたい風合いで、素足で歩きたくなる絶妙な肌です。

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這いつくばって舐めるように見ている筆者の様子を、仲居さんに不審そうに(!?)見られてしまいました。

渡り廊下に続く階段です。床灯籠の光と庭からの日差しがあたり、美しい輝きを放つ洗い出し・研ぎ出し床です。

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廊下の石張りの両脇には、深草を使った洗い出しが施されています。
これまた綺麗な仕上がりです。

[レシピ]
普通セメント 100g
バイエルン黒 20g
MC 0.1g
配合20Kg:山砂75Kg


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突如、絵画のような庭園が広がります。庭の美しさも言葉にならないほどすばらしいものです。腰掛待合いがある渡り廊下も庭園と一体になって、とても粋なスポットになっています。

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その足下を見ると、ここにも洗い出しが施されていました。

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奥の離れの部屋に続く廊下にも・・・

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壁から床すべてに左官の技が。

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ここは「武蔵の湯」の内湯です。湯舟は掻き落とし・研ぎ出し仕上げで出来ています。ずっしりと落ち着きのある印象で、今までに触れたことのない、魅力的な柔らかい肌触りがです。
壁も腰上、腰下と配色を変えて、洗い出し・研ぎ出しが施されています。

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■遊び心もふんだんに

「つうの湯」の露天風呂です。風呂底土間も掻き落とし・研ぎ出し仕上げで出来ています。
そこにそっと佇む東屋があります。ゆっくりと湯に浸かり、のぼせ気味の体で腰掛けて露天風呂の景色を楽しみます。

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ふと、袖壁に目をやれば・・・
景色もすばらしいですが、その壁も何とも言えない雰囲気を持つ、癒される仕上がりを見せています。これが久住親方が言っていた「遊んでる壁 はかま流し藁」です。何本かの長藁がすーっと流れるように伏せ込んであります。若い左官職人さんが、7回も塗り替えて必死で仕上げた秀作です。

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何とも言えない、湯処で楽しむ贅沢なひとときです。

[レシピ]
大杉土(5厘) 100g
珪砂(6号)  100g
つのまた 2g
白雪5mm 2.5g
ハイフレ 10cc


そして、各部屋には贅沢な部屋湯が付いています。「松の生」では、さらに贅沢にプライベート露天風呂まで用意されています。黒の掻き落とし・研ぎ出し仕上げの湯舟の、それはそれは美しいこと。

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湯が掛かり渋く淡く黒い光を放っています。しばし言葉をなくし見入ってしまいました。やはり、触れた感触はすごく優しいです。

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湯に映る梅雨時の新緑が見事です。湯舟に浸かると全面均等に湯が溢れて、洗い出し・研ぎ出しの肌に流れる様子はとても美しいそうです。

説明会で久住親方が下地つくりについて図示されましたので添付します。

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また趣の違う半露天風呂です。浴槽を桶のようにしつらえた、やはり全てを左官の技で作り上げた快適湯です。

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ここは、檜の香りがいっぱい漂う檜風呂です。半露天で気分爽快です。

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こちらも部屋付きの露天風呂です。どれも究極のこだわりをもって仕上げられています。

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ゆっくりとお風呂を楽しんだあと、お部屋で庭を眺めながら涼みます。何という至福の時間でしょうか。



■「左官は死ぬまで勉強や」

また、この内覧会では久住親方が三木の五百蔵鏝製作所に事前に注文した鏝や、仕上げに使用された山本さん・薬師さんの鏝のレプリカが展示されました。

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翌日には藁スサの篩い方について、久住親方を講師として実習が行われました。飛び出しスサは右の写真のように、藁スサを飛ばしながら軽いスサと重いスサを分けることにより分離し、さびきスサは格子目により篩いわけることにより分離するものです。

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数寄屋の文化については、1574年に来日したキリスト教宣教師ジョアン・ロドリゲスが1634年に著した、日本教会史に記述があります。その後、千利休、古田織部、小堀遠州と、茶人の世界でいろいろな変化を見せながら引き継がれて来ました。そして現代、その数寄屋建築技術を蘇らせると同時に進化させ続ける達人として、我らが久住親方がいます。

久住親方がいかに凄い人であるか、今回改めて良く理解出来ました。深い知識と技術を持ち合わせる親方は、遠山記念館以来と言われる本格的数寄屋建築「柳生の庄」の大工事を成し遂げました。今回の見学を通して職人さんのすばらしさ、その技の凄さに大きな感動を覚えました。

久住親方はよく言われます。
「左官の仕事はこれが正しいとか良いとかいうのはないんです。今あるのは一時的なもので、技術はどんどん良くなります。いいですか、自分で研究して造っていくんです。死ぬまで勉強や! それが自分にとってどうか、人が見てどうかということなんです」
若い左官職人に夢を与える「左官愛」溢れる言葉です。




久住親方、「柳生の庄」オーナー長谷川卓様、「柳生の庄」の皆々様、幹事の植田俊彦様、ご参加の皆様、ありがとうございました。最高の修善寺左官三昧に心から感謝申し上げます。

(記 富沢建材株式会社・冨澤英一)

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