左官講習会 久住章氏の黒磨き
設計+制作 建築巧房 高木正三郎
さる、2011/4/23、大分県日田市まで、とある左官講習会に参加しました。主催も参加者もほとんどすべて、左官職人さんたちです。お題は「黒漆喰磨き」。漆喰というと普通は白に決まっていますが、色は、色粉を入れて、基本いろんな色が可能です。黒は、昔ながらであれば、松煙といって、松の木片を炭化させた粉を寝かしたもので、色をつけます。その黒漆喰を、今回は磨く。コテで押さえただけでは、灰色ですが、コテで押さえ続けると表面がピカピカになって、所謂黒光りがしてくるという、最高級仕上げです。
今では、ぴかぴかな素材は、日用品の中に溢れていますが、かつては、特別なものに限られていました。金銀、刀、漆、磁器、など、すべて、ピカピカは高価でした。黒漆喰もおそらく、そういうグレードの仲間であったのだと思います。ですから今、むしろ安物としてのピカピカが溢れている中で、黒漆喰はどういう意味合いがあるのだろうかという感じもします、頭で考える限り。とはいえ、例えば、プラスチックの黒、もしくは、高級エナメル塗装の黒、そういうものと、黒漆喰が同じかというと、違う、ということだけは、ハッキリ言えます。手触り、肌触りに至っては、これはもう、筆舌では伝達不可能です。こういうものづくりの極致を知っているのと知らないのとでは、違うのではないか。ここまでは、言わせて頂きたい。
実際この日も、久住氏の何処までも奥行きのある話を聞くために、日本各地から老若の左官屋さん達が脚を運んだわけですが、一方では彼らの中に、この黒漆喰が、実際の仕事で塗られる時があるだろうかという疑問があったと思います。現場という本番があるかといわれると、こんなに手間のかかる仕上げは、当面ないわけです。でも、時間とお金を使って、この会に参加する意味は、「極致を知る」ということだけでも十分に収穫だったのではないか思います。明日の銭にはならないことですが。建築設計者としての私自身にとっても、もしくは日常生活の未来にとっても、まったくこの仕上げは高価すぎて、明日の仕事に応用できるものではありません。ただ、日本人はそういう類のものを作り得る、という自信のようなものを体験できたということになるでしょうか。オリンピックで日本選手が入賞したときの喜びのようなものと近いものかもしれません。そうして、また明日から何かに向かって頑張ろう、ということでしょうか。
*編集室より
高木正三郎さんは、かつて月刊誌『左官教室』で長年執筆されていました。早大石山修武ゼミ在籍のころ、すでに左官の可能性に深く興味を持たれていました。自らの設計理念に基づき、土壁・漆喰を組み入れながら新たな表現、価値を見出してきた方と評します。また大分原田進左官親方(=原田左研)との親交による制作活動もかなり面白いトライをされています。
まずは下記のHPからお入りください。
(記 佐平)
■建築巧房ホームページ
http://www.kooobooo.net/index.html