手作りのチリボーキ
久住 章
■01 ススキのチリボーキ
1.はじめに
1982年頃、漆喰黒磨きの講師として長野県佐久市の会場を訪れた折、地元の数人の職人さんがチガヤで作ったチリボーキを持っていた。その使い込まれたチリボーキは漆喰の汚れがとても良く取れ、バケツから飛び出るほど柄が長い(長さ30㎝~40㎝)のが印象的であった。チガヤは茎の内部が空洞になっている。茎の穂先を叩きほぐしてホーキの毛先とし、ほかの部分を綿糸(ヤンマ糸)で巻いて柄としていた。
帰宅後、私も作ろうとしたが淡路島にはチガヤが少なく、止むを得ずススキを使ってみた。ススキは茎の内部が空洞ではなく、白いスポンジ状の「フ」があり、それを取り除かなければ使えない。色々試した結果、茎の芯の周囲を取り囲む「ハカマ」部分で作る事にした。
2.材料のススキについて
ススキは沖縄から北海道までいたる所に植生し、種類も多様である。茎の直径は3㎜〜10㎜ほどで、径の大きい物ほど内部の繊維も太く腰がしっかりしており、使う本数が少なくてすむ。刈り取りの時季は九州・四国・和歌山では10月20日~11月30日あたり、これより北では10月1日~11月10日、冬の早い所では9月20日~10月20日までと地域によって異なる。
目安は穂先から下の第1節と第2節の間の茎の色が緑色であること。これより刈り取りが早過ぎると繊維がちぎれ易く、逆に遅ければ繊維がパサパサで使いにくい。
3.ススキからハカマをとる
ススキを刈り取り、ハカマ部分をはがしとる。下になるほど繊維が弱く使えないので、穂先に近い上の方からとってゆく。ススキの背丈が高く茎の太い物は上から第3節まで使える。節の上部の白い部分は繊維がしっかりしている。ハカマの下部(茎を包む部分)は白い物が良い。
中塗り用として作る場合、ハカマは太いもので80本以上必要となる。
4.ハカマを叩いてほぐす
ハカマは刈り取ったその日の内にハンマーで叩く。柄になる部分は軽く叩き、チリボーキの毛先に仕上がる部分はよく叩いて繊維を出すようにする。中間には叩かない部分をつくる(図②a図②b)。すぐに叩けない場合は、乾燥しないように刈り取った茎・ハカマをそのまま水の中に浸しておくと、1週間は保管できる。
この部分は柄の部分になる。叩かないと柄が太くなりすぎ、叩きすぎると柄に腰がなくなり、使用する時に折れ曲がりやすくなる。
この部分は叩かない。これはチリボーキの毛先に近づくほどラッパ状にする為である。
毛先になる部分はハンマーでよく叩くが、強く叩きすぎると繊維がちぎれて芳しくない。
毛先部分は、先が広がって繊維が出るくらい叩いてほぐす。
叩き終わったら、亀の子ワイヤーブラシで弱い繊維を取り除く。裏・表を交互に返しながらやわらかく削ぐように、10回以上スキとる。
ワイヤーブラシにスキ取った弱い繊維が詰まってきたら、千枚通しで取り除く。
この後、2、3日乾燥させる。(乾燥させずに糸を巻くと後日、ゆるんでしまう)。
5.ハカマを束ねて糸で巻く
上下両端を輪ゴムもしくは粘着テープでグルグル巻いて仮止めする。(後の作業性が良くなる)
だんだん細くなってゆくハカマの葉先の方を下に向けることになるので、束ねても自然にきれいな形になる。(下に下がるほど細くする事で水切れが良くなる。)
まず、毛先から13㎝のところ(首つまり、ハンマーで叩かなかった部分)から毛先に向かって巻き始める。
糸は現場用太めの水糸もしくは魚釣り用の糸を使用し、強く引っ張っても切れない物を使う。色は好みに合わせて。巻き糸は細すぎると貧弱に見え、太すぎると野暮ったく見える。糸の根元に図⑤のように糸輪をつくり、その上を覆うように巻いてゆく。糸の根元は押さえておく。最初は軽く3回巻きつけ、4回目にかなり強く引き締める(これが重要)。その後7回目まで強く締め、8回目からちょっとずつ緩め、10回目からもう少し緩めて巻く。そうする事により毛先に向かってラッパ状のきれいな形になる。
12㎜~18㎜ぐらいの幅になるまで巻いた時点で糸巻きから切り離し、最初の糸輪の中へ最後の糸先をくぐらせる(図⑥左)。糸の上端を固定しながら下端を強く引き、巻き巾の中央の位置まで糸輪が来るようにする。それぞれの糸先が中に隠れるよう、巻き幅ギリギリの位置に揃えてカッターで糸を切る。
巻き終えた後、コンクリートの上に置いて全体をハンマーで叩き、扁平型にする。
1段目の巻き幅と同幅のすき間を空けて、2段目を巻く。このとき、上下を逆に握り、糸輪は下向き(尻側)にする。同じように、3段目、4段目と巻いてゆく。要点は1段ごとにハンマーで叩き扁平型にしながら作ること。全部巻き終えた後で叩くと、扁平型になりにくく円に戻りやすくなる。
最後の糸結びから出た尻は長過ぎると使用時にめくれ上がって来るので、1.5㎝~2㎝残してノミをあて、ハンマーで叩いて切断する。
切断面の角を少し丸く削る。
柄を巻き終えた後仮止めテープを外しハンマーで毛先全体を叩く。毛先は正面図のように三角形に広がる。毛先幅は広げ過ぎても使いにくいので適度に加減する。
毛先の長さ(頭)は短いと毛先は薄く出来ず、また毛先の腰が硬く感じて使いにくくなる。
6.毛先を削ぎ落とす
毛先の先端をカッター、ノミ、刃物でそぎ落とし。両刃にして薄くする。
まず、定木や平板(厚6㎜~9㎜)にグレー色の耐水性サンドペーパー#100を巻きつけ、タッカーのステップルで固定する。
角材で作った台座の角にチリボーキの毛先を当て、その上からサンドペーパー#100付き定木で毛先を削り整形する。これは刃物でそぎ落とすよりも毛先がよじれて先端が柔らかくなり、形も整えやすく使いやすい。この時、チリボーキもサンドペーパーも水に浸しながら削ることである。
7.毛先の形状
毛先部分は、先を広がった形状にして、壁隅にも毛先が届くように整える。
毛先の両肩は直線より少し「なで肩」に下げるとチリ掃除の時に使いやすい。
肩が下がり過ぎたり、中央がくぼんで三日月型にならない様に心掛ける。
毛先は常にサンドペーパーで整える。
使っているうちに毛先が磨耗し、次第に頭の長さが足りなくなるので、その場合は上部の巻き糸を1段切り外して頭の適切な長さを確保する。
8.メンテナンス
ススキの繊維は細くても腰が強く、1段目結び糸よりかなり頭が長くても問題はない。むしろ頭は長めの方が毛先を薄く出来るのでチリ際の掃除がしやすくなる。
しかし中塗りのチリ際掃除でふた現場ぐらい使用すると、頭の腰は弱くなり過ぎて「腰抜け状態」になる。そこで頭の長さは短くなるが、思い切って10㎜~15㎜程度ハサミで切断して再度サンドペーパーで毛先を整える。この調整によって上塗りにも使用出来る。
ススキの欠点は、短期間に毛先が柔らかくなり過ぎ、またシュロ製に比べて少し水の切れが悪くなるので、常に手入れが必要なことである。ススキのハカマは、土壁の中塗り用の場合は80本~100本、上塗り用には50本~60本が必要で、細幅でも良い。一方、漆喰用や樹脂入り上塗り材には太目で幅広の形状が良く、少ない回数で汚れが取れる。また、そのまま中塗り用に使用する場合は長目に切り(頭の長さは短目にして)毛先を厚く強い腰加減にする。
シュロ製は長持ちで水切れも良いが、使いやすくなるのに時間が掛かり過ぎる。比べてススキ製は最初から使いやすい。
9.柄の形状
柄は首(巻き糸1段目)から尻にゆくに従い、細幅にする。
市販されているチリボーキは首から尻へ同じ太さの物がほとんどである。しかし、バケツの縁に叩いて毛先の水を切るときに上部が重いと水切れが悪い。尻に向かい次第に細くなっていれば、よく水が切れる。