木村謙一氏連載3

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物件No.3「いいちこ」日田工場販売施設入口(大分) 原田進(作)

美術仕事人 木村謙一


筆者と同年代である大分県日田の左官職人・原田進の作品を、今回は2つほど取り上げて論じながら、「美術的左官」と、その未来、ひいては風景の未来を考えてみようと思います。
(今回から、作者敬称は略させていただきますので、悪しからず、了解くださいませ。)

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この物件は、原田進が「土漆喰(つちしっくい)」と呼ぶ技法(カテゴリー)に属しますが、木々のシルエットが描いてあります。
まず、塗られた「土漆喰」の壁全体に、横引きに「掻き落とし」を行なった後、長〜い棒の先で木々の輪郭をけがき、輪郭の外側をさらにランダムに掻き落とす、というやり方で濃淡を生み出し、木々を表現しています。木の輪郭内は、したがって横引きの後が残ります。
描かれた木々のシルエットは、建物の周囲の現実の木々とつながりをもたらし、建物と周囲を分割して見ようとする視線に「待った」をかけ、風景の広がりを建物が阻害するのを防いでいるのです。これは、なかなかいいアイデアですし、シルエットも「決まって」ますね。

さて、原田進は、どのようにこのシルエットを決定したのでしょうか?
彼は、A4くらいの紙に何枚も何枚も下絵を描き、建物の設計者と一緒に「これだな」という決定稿を決めた後は、壁の前に立って、棒の先で「一発で」輪郭を決定しています。下絵を拡大するために、マス目を使用したり、電気的器具を使用したりしていません。(そんな時間的余裕もありません。)

このようなやり方は、経験を積んできた者でなければできない。何枚も下絵を描いて頭に入れた後は一気に描く、というやり方も、現場で感じるスケールを損なわない、正しいやり方です。(正しい、というのは言葉のアヤで、人それぞれのやり方があっていいのですが、自分ならこのやり方で「決める」ことができる、という方法を持っていなければ、できないことです。)

さあて、このように絵心もあり、経験もある原田進ですが、次のような仕事もしています。


物件No.4 愛宕浜リベーラガーデン敷地内公園(福岡) 原田進+オオギカナエ


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この物件で原田進は、福岡のオオギカナエという人のデザインで仕事をし、「協働関係(コラボレーション)」を成立させています。
場所は高層マンションの敷地内にある、ちょっとした児童公園のようなところです。
上端を波状にした、「ついたて」のような壁は、土の色と白い漆喰の色、小砂利の色で、図柄は、レリーフ状に厚みをつけて表現しています。なかなか存在感があります。
筆者が写真を撮った時は周囲が殺伐として文字通りの「殺風景」でしたが、将来木々が育ち、植物も増えて、土の色が緑に映えると、もっといい感じになるでしょう。

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公園の水飲みやベンチも左官でかわいく作られていました。左官のモコモコした感触とタイルの関係が良いですね。

このように、左官職人が、デザインや美術の職人とコラボレーションしていくことは、良いことです。というか、絶対に「おすすめ」です。
原田進は、絵心もあり、造形力もなかなかのものがある職人ですが、このようにデザインや美術の専門家と組むことで、アイデア的にも出来映え的にも増強することが可能になります。

これは、小さな成功例ですが、これからは、もっと、このようなことに多くの人がチャレンジしてみては、と思うのです。
仕事の始まりは、どこからでもかまわない。施主からでも、設計士やデザイナーからでも、左官職人からでも、不動産屋からでも、いい。このような「協働」が未来を拓く、と考えます。お金の流れの上下関係が、そのまま仕事の上下関係であった「愚かな時代」を終わらせましょう。キーワードは、「協働する関係」であり、殺風景を「活風景」にするのは、そのような人と人の関係ではないでしょうか─?

次回も原田進の仕事を取り上げます。乞う、御期待!!

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