伊豆長八からの手紙(第5回) 海鼠壁の土蔵復活計画
伊豆長八作品保存会 関 賢助
夢の中で描いている土蔵を現実化するためには、どの様に計画し、実現に向かってゆくのか。
現在、海鼠壁の土蔵保存運動を進めているグループ、「蔵造りたい」の心構えやムードだけでは何もできません。
我々の趣旨を理解し、方向付けしていただける方、伊豆の松崎町の現状を把握され、愛情を持っておられる方、設計者はおられないかと勝手気ままなお願いに、「やってみますか」と微笑みながら引き受けてくださったのは工藤省三先生でした。十数年前に町内に引っ越して来られた設計士であり、イラストレーターとして町内の施設を爽やかに葉書に描き、好評を得ていられる方です。
工藤先生は我々と共に町内の蔵の実態を視察しながら、土蔵独特の鉢巻(軒先や妻壁)や海鼠壁の形を撮影し実測をされる等、資料の収集に当たっておられました。
何分にも、10平米以下という、限られた坪数ですから、「窓は平屋だから、妻側にとるとしても、大きなものは無理だね」、「瓦の霧避け屋根の持ち送りは」、「防火や保安の戸は」、「入り口は」などを検討しながら見て歩きました。
町内の蔵の出入り口は引き戸が多く、扉は数箇所しかありません。窓も大きな物は鉄板製品が多く、今回の視察のなかでも引き戸が多かったのですが、その中に破損が進行し解体も遠からずと予測される蔵に、思いがけない他では見られない物件に遭遇しました。その物件は松崎町で町内全ての蔵の調査をした際にも話題になった出入り口の引き戸が、壊れかけた蔵に残っていました。
既存の9尺2間の蔵(イメージ) 背は高くなる予定
戸の上半分は唐獅子が、下半分には牡丹が墨で描かれています。絵が描かれている扉は町内200の蔵の中で此処だけの貴重なものだけに、何とか保護保存をと考えていました。今回、これから造る蔵に移動して保存したいと我々の趣旨を話しますと、「良いですよ」と暖かい賛同の言葉をいただき貴重な戸前を譲っていただく事になりました。我々のいつも課題としている、土蔵海鼠壁の保存啓蒙と一致するところでもあり、感謝と共にこれからの我々の活動にもご協力をお願いしました。
さて、これから始まる工事の資材を、どうやって準備するのかも大事な課題です。
屋根瓦は昨年、解体される事務所から回収しました。小舞竹は12月の初めに切り出して保管してあり、数は充分なのですが、不安もあります。それは、我々が秋の季節に伐採した竹の新竹と古竹の見分け、判別が意のごとくにならない事で、古老に伺っても要領を得ません。ただし小舞竹の現場使用までには半年の間があり数は充分あります。そこで使用の頃には新竹は表面がシワシワになる特徴からその時点で選別すればよいとの余り頼りにならないご返事でした。
こうした経緯で次に大切な資材である材木はどうするか。そこで我々のメンバーの中に森林組合の知人がいて、その方によれば、「伐採後放置してある材木の中には、充分使用に差し支えの無い原木もありますよ」、との情報をいただきました。さっそく設計図面から柱、土台、梁、桁、棟木などの主要木材を数え、寸法を確認し、使用に耐える木材の調査に出かけることになりました。
その結果、伐採現場から道路までの搬出はどうするのか、現場の状態を確認しました。原木は重量があり、素人には容易にできる作業ではなく危険が伴うことが予想されます。またここからの製材所までの運送方法はどうするか。いずれも安易な考えではクリアーできない問題が山積みしています。しかし慌てずに自分たちの夢実現に向かって、ゴーサインのスイッチを押しています。
「蔵造りたい」
地元の職業を問わないやる気のある有志20名が中心の会。
2009年10月、11月の国民文化祭に参加する蔵で松崎町所縁の海鼠壁実演が行なわれます。