「金物マガジン vol.4」(2007年8月25日発行:株式会社エフキューブ)より記事転載
「使い始めはもちろん、使い込むことで、より手になじむ鏝を製造しています」。兵庫県三木市で約90年の実績で四代目を迎えた鏝鍛冶を営む、梶原鏝製作所に足を運んだ。
初代は髭を剃るためのカミソリを造っていたという。それから鏝鍛冶に変更していったというが、その理由はさだかではない。「平成4年、三木の鏝を伝統工芸品として申請しようと書類を作っていた時に、初代が鏝組合の会長だったことを知ったんですわ」と驚いた声で教えてくれたのは、三代目梶原薫氏。今年で69歳になるという。また「二代目になってね、親父の兄弟は神戸から鏝を買ってきては、ばらして研究をしたみたいやわ」と当時の苦労を語ってくれた。今では三代目と四代目の梶原直樹氏、奥さん、従業員2人の5人で製作所を切り盛りされている。
7月末日、この日は道路のアスファルトが溶けそうなほど太陽が照りつけていた。製作所に向かう撮影班の車内もむせかえていた。電話をすると「もう近くですわ、迎えに行きます」。しばらくして、白いTシャツにサスペンダーをした姿が走ってくるのが見えた。遠くから大きく手を振り、炎天下の中、息をきらせて。「よう、お出でくださいました」。はつらつとした笑顔で薫氏が迎えてくれた。「暑いね~」などと言っていたのが恥ずかしく、その元気な姿に恐縮する。
作業場に案内していただくと、中では機械たちが重厚な面持ちで待っていた。外の空気とは一変して緊張感が走り、鍛造場に促された。そこでは鏝となる鋼の焼入作業をしている。炉の中に入れた鉄を出しては叩き、また焼いては叩き焼入れと打ち伸ばしを3回ずつ繰り返す。鏝のメインとなる部分の鉄はとても薄く、短時間で冷えてしまう。しかし「短時間でなければならないかといって、荒い加工になると次の工程から仕事がしにくくなる」。裏目が魚のうろこのように、丸い球体が重なりあう模様ができるようになるのが理想的。その後は焼きなましに12時間ほどかけて温度を下げる。「どの工程も鉄に粘りがでて、硬く折れないものができるように・・・」。学生の頃から研究を続け、今でもその姿勢は忘れずにいるという。四代目の直樹氏もこの家業を継いで10年余り、工程の中で一番難しいとされる「歪みとり」もこなし父親の後を追いかけている。
「どの作業でもなるべく歪みをださないようにすることで、効果があげられます」。繊細な鉄との葛藤に常に緊張感をもって接しているのが伝わってきた。この後、研磨、艶出し、柄付けと続いていく。
「まだまだです」とおっしゃる二人は、使い手の職人さんたちの手となるこの道具を「使いやすい」と言ってくれるようにより良いものを作っていきたいと願っている。時代の流れとともに建築も変わってきたのが現状だが、ここには長い歴史の中で培われてきた鏝鍛冶職人の心が根付いていた。
梶原鏝製作所
兵庫県三木市加佐196-4
電話:0794-82-6236
Mail:kote-hisika@gernet.broba.cc
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