イギリス、練り土造(cob)の家
建築家 磯村雅子
世界各地には様々な土の建築方法があります。その中で、木材などの構造体を用いず、土だけで一体型の壁を造る工法には、版築や日干しレンガ造、練り土造があります。
イギリス南西部のデボン州には、伝統的に特色ある練り土造の工法(cob)が、現在まで残されています。版築は壁の両側に型枠を用いますが、基本的に練り土造は型枠なしで、荒壁土を壁に直接積み上げて造ります。今回は数年前にコブ職人のケビンさんに見せてもらった壁の作り方をご紹介します。
まず土の準備ですが、付近でとれる粘土質の赤土や砂、砂利、大麦の藁、水を、トラクターでよく混ぜ合わせます。(写真1)この土を農業用フォークで壁の上にのせ(写真2)、足で力強く踏み固めます。(写真3)壁厚は底部で90cm、3階建ての上部で75cmもあり、人が上に乗って作業できるような十分な厚みのある壁です。両端からはみ出た土は、靴のかかとや足の裏で横から叩き締めます。(写真4)土は一日で高さ50cm程度積み上げ、1~2日後にシャベルなどで横にはみ出した土を上からカットします。(写真5)さらに数日後に表面を叩き棒で叩き締めます。(写真6)イギリスの美しい庭のような田園風景にたたずむ、藁葺きと土壁の素朴な家々。(写真7)(写真8)
実際にはコブの建設作業は相当な重労働を要しますが、良い帽子(屋根)と靴(基礎)があれば数百年もの耐久性のある、とても力強い建造物です。
(以下画像はクリックすると大きくなります)
写真1 土の混ぜ合わせ
写真2 土をフォークで壁の上に載せる
写真3 土を足で踏み固める
写真4 はみ出た土を横から叩き締める
写真5 土をカットする
写真6 土を叩く
写真7 コブで増築された農家
写真8 古いコブ造を修復した民家。石灰モルタル仕上げ