大工氏投稿1

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漆塗と左官の確かな技と美しさ

石川県輪島市 蔦屋漆器店 大工素也


平成19年3月25日の能登半島地震により我が家の土蔵は大打撃を受けました。土壁があちこちではがれ落ち、無残な姿を見せていました。
この土蔵は輪島塗の上塗を行なう大切な場所です。一時は荒壁パネルという新建材による補修をせざるを得ないと思いましたが、全国の左官職人の方々のご協力を得て、土壁の再生が出来たことを深く感謝申し上げます。

今回は左官と漆塗の共通点について輪島塗技法の面から書いてみたいと思います。
漆はその美しい艶を持つ世界一美しい塗料としての面と、強固な下地材及び接着剤としての両面を持っています。まず木地に漆をしみ込ませて丈夫にした後、傷みやすい上縁や裏側などに布を漆で貼り補強します。その後、漆と地の粉という輪島にしかない珪藻土を焼いて粉末にしたものを混ぜ、木地に肉付けしていきます。粒子が一番粗い一辺地から二辺地、三辺地とヘラで付けていきます。その後刷毛による中塗、上塗と進みますが、この工程の間には必ず研ぎが入ります。  
何事も基礎が大切で下地が良くないと良い仕上がりは期待できません。輪島塗も木地の吟味を基本としており、数々の工程において、一つひとつがまるで完成形であるかのような仕上がりを求められます。こうした繰り返しの工程を経た仕事が理想とされます。
今回の左官の技も同じで、竹小舞の美しさ、丈夫さに一同ここで止めようかと言い出すほど感嘆させられました。さらに中塗のザックリとした美しさにも感心させられ、磨きによる上塗は吸い込まれるような肌合いです。
また、今回土を付けたばかりの壁の濡れ色には深い美しさを感じました。それは一時のもので目的とする美ではないのでしょうが、漆にも人に見せるものではない美があります。それは上塗漆を漉す時に漉し紙から湧き出てくる漆の艶やかさです。それが白磁の茶碗に溜まっていく様にも息を呑むような美しさがあります。
最後に漆と土に関わる者の共通点として感じたのは良いものを作ろうと思う心です。左官職人の方々は熱い心でもの作りに取り組んでいることが解りました。ただ奥能登の漆職人も心の内に情熱を隠し持っています。蔵の木と竹と土。漆器の木と布と漆。自然のもののみで出来上がることの美しさ。古代から我々がどこかに持っている美意識の高さ、技術の確かさ。日本人としてこれを誇り、大切にしなくてはならないと思います。

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