
James Tobin (1918-2002)
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トービン税とは、すべての国際金融取引に、うすく課税する税制で、いわば為替取引の消費税です。たとえば税率0.1%とすると、追加負担がわずかなため、直接投資や商品取引の決済などにはほとんど影響を与えませんが、短期に激しく移動を繰り返す投機的な資金の流れにとっては、かなりの重税(ある投資家が、毎日、取り引きを繰り返したとすると、1回あたりは0.1%でも1年間では40%以上もの税率となる)。それで、ヘッジファンドなどによる投機的な資金の流れを抑制する効果があると期待されています。しかもこの税収をなんらかの国際機関に集めれば、たとえ税率0.1%でも現在の世界のODA(政府開発援助)をはるかに超える資金を発展途上国支援に使えます。この税制のアイディアを最初に提案したジェームズ・トービン博士(写真右)の名前にちなんで、“トービン税”と呼ばれるようになりました。
トービン博士は、米エール大学名誉教授で、アメリカを代表する経済学者でした(今年2002年3月11日に死去)。1981年にはノーベル経済学賞も受賞しています。トービン博士が、この“国際通貨取引税”構想を提唱したのは1972年のこと。つまり“ドルショック”直後、世界的に為替の変動相場制へ移行した時期でした。そのときに為替相場を安定させるためにと提唱されたわけですが、「非現実的だ」と、ほとんど注目されてきませんでした。それがいま、あらためて注目をあびるようになったのは、カジノ資本主義と言われるほど、アメリカ流グローバリゼーションの害悪が広がってきたためです。
カジノ資本主義とは、いま為替市場が、ほんとうにバクチ的に使われているようすを表わした言葉。もともと為替市場は、商品の輸出入にかかわる決済のためのものでした(日本企業がアメリカにモノを輸出して、アメリカはドルで支払い、日本が円で受け取りたいとき、ドルと円を一定の比率で交換するのが為替市場)。いま1年間で世界の輸出入取引の総額は5兆ドル弱と言われていますが、為替取引の金額は1日平均1.8兆ドル(日本のGDP=国内総生産の半分!)にも達しています。つまり輸出入の決済のための金額は為替取引全体の3日ぶんほどで、のこりの363日ぶんの為替取引は、ただ相場の変動による利ざや稼ぎのためだけに売り買いされているわけです。自由経済至上主義、市場原理万能論を背景とする、このバクチ的な投機資金の流れが、モノづくり中心の健全な資本主義のありかたに反するだけでなく、発展途上国の経済を破壊しさえするために、これを抑制することが世界的な課題となってきたのです。
フランスで立法化されたことも(2001年11月)、トービン税への関心をひろげました。フランス国会が、『EU諸国がまったく同一の措置をとった場合にのみ実施する』という条件つきながらもトービン税導入を決めたことは、アメリカ型グローバリゼーションに対抗する試みとして、重要な意味があると思います。しかし、まだまだ課題はたくさんあります。この税収を誰がどのように使うか、そのシステムを確立することは大きな問題ですし、EU全体で実施されたとしても、世界経済の半分にとどきません。世界の総生産の半分近くをしめるアメリカ+日本の経済をどうするか、私たちにも問われる課題です。
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